聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 三人の聖女が国を出た数時間後。
 置き手紙でそれを知ったデリント王子は、血相を変えて王座の間にやってきた。

「父上!」
「デリント? どうしたのだ?」
「どうしたもこうしたもないよ! これを見て!」

 デリント王子は手紙を国王に見せた。
 国王は驚いた様子を見せたが、一瞬でそれも終わる。
 その表情は、最初からこうなることが分かっていたようにすら思える。

「そうか、三人で出て行ったのか」
「そうなんだよ! あの裏切者が……でもまだ遠くにはいってないはず! 今から追いかければ間に合うよ!」
「いいや、追わなくて良い」
「……へ? 何を言っているの父上!」
「追う必要はないと言ったんだ。彼女たちはもう十分に働いてくれた。そもそも先に見限ったのは我々だ」

 国王は悔いていた。
 偽物を選ばなければいけない状況で、何もしてあげられなかったことを。
 国のために働いていた彼女たちを、こんな形で追い出さなくてはならなかった己の無力さを。
 全てはデリント王子が仕掛けた罠であったと知らず、ただただ後悔していた。

「おかしなことを言わないでよ父上。聖女がいなくなって、この国はどうするんだ!」
「それを今から考える。お前にも働いてもらうぞ」
「違う! そんなことするよりあいつらを連れ戻したほうが早い!」
「ならん! これは王としても命令だ。聖女たちは決して追うな」
「くっ……父上」

 デリントは悔しそうに唇を噛みしめ、王座の間を後にする。
 聖女たちの部屋へ赴き、手紙を開いて破り捨て、椅子を蹴飛ばして声をあらげる。

「ふざけやがって! どいつもこいつも何で言うことを聞かないんだよ!」

 膨れ上がった負の感情。
 彼の中のプライドを傷つけられ、はらわたが煮えくり返る思いをしている。

「父上の命令だろうが知ったことか! ぜったいに見つけ出して、二度と私に逆らえないように調教してやる」

 歪んだ思想は加速し、良くない妄想へと発展する。
 彼はそうして王の目を盗み捜索を開始した。
 三人の聖女は目立つ容姿をしているから、探索はそこまで難しくない。
 予想外だったのは、遥か遠くの国までわたり住んでいること。
 まったく交流のない国へ入ることは、王子である彼には危険な行動ではある。
 だが、そんなことはお構いなしに、彼はせっせとやってきた。
 自国では王が反感をくらい、民の信頼を著しく低下させているというのに。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「君たちのことをずーっと考えていたんだよ? 遠く離れていようとも、こんなにも君たちを愛しているのは私だけだ」

 歪んだ愛情だ。
 彼女たちはそんなものを求めていない。
 デリント王子にはそれが理解できていないのだ。
 見えているのは、自分の欲を満たすことのみ。

「これからたーっぷり愛してあげよう。二度と、二度とこんな真似できないように、徹底的に身体へ教えてあげるからね」

 そう言って、いやらしい手つきでアイラに触る。
 
 気持ち悪い。
 触らないでほしい。
 
 そう思っても、声を出すこともできない。
 彼女たちは叫んだ。
 声にならない心の叫びは、本物の愛を引き合わせる。

 ガチャ――

「なっ、誰だ!?」
「うるさい。ちょっと寝てろ」

 三人の兵士が一瞬で意識を失い、床に倒れ込む。
 腰に据えた大きな剣など使う必要もない。
 怒りに任せて斬りたいのは、この兵士たちではないのだから。

「遅いと思って様子を見に来てみれば……随分と勝手をしてくれたな」
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