聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

5

 国王陛下直轄の騎士たちが、私たちの屋敷にやってきた。
 陛下から大切な話があるらしく、すぐに王座の間へ来てほしいとのこと。

「国王陛下が……」
「解決策が見つかったのかも」
「本当? じゃあ早く行こうよ!」
「……そうね。行きましょう」

 外は相変わらず酷い状況が続いている。
 城内も慌ただしい。
 陛下もお疲れだと思うけど、ここは国の長としてしっかり解決してほしい。
 ここまで広まってしまえば、私たちの力では解決できない。
 
 三人そろって屋敷を出る。
 王座の間までは、直轄の騎士たちが護衛してくれる。
 彼らはどの派閥にも属しておらず、国王陛下の命令に忠実だから安心だ。
 そういえば……今さらになって気付く。
 三人そろって王座の間に入るのは、私たちが聖女に選ばれた日以来かもしれない。

 そんなことを考えていると、あっという間に部屋の前までたどり着いていた。
 騎士がノックをして、扉を開ける。
 開かれた先で、陛下が玉座に座っていた。
 隣にはデリント王子の姿もある。
 一瞬ニヤついているように見えたけど、きっと気のせいだろう。

「急な呼び出しだったが、三人ともよく来てくれたな」
「いえ、滅相もございません。それで陛下、大切な話というのは?」

 私が代表して受け答えをする。
 大方の予想はつくが、私はあえて陛下に質問した。
 陛下は質問を聞くと、ピクリと眉を動かし、表現の難しい顔を見せる。

「うむ、そうだな。回りくどい話をしても仕方あるまい。君たちも当然知っていると思うが、街では偽物の聖女の噂で大騒ぎだ」
「はい。私たちのことで大変なご迷惑をおかけしております」
「いいや、君たちに非はない……と私は思っている」

 陛下が意味深な言い回しをしている。
 それから陛下は、街で広まっている噂について詳細を教えてくださった。

 噂の内容は知っての通り、聖女三人のうち二人は偽物だというもの。
 陛下の命で噂の発生源を調べたが、残念ながらわかっていないそうだ。
 元よりこれだけ広まってしまえば、発生源を特定した所で手遅れである。

「加えて深刻なのは、このことが他国に知られているということだ」
「それは一体どういう……」
「私も失念していたよ。いや、小さな噂だと侮っていた。我が国は近隣諸国と友好な関係を築いている。それ故に、多くの旅人や旅行客が首都パルブに訪れていた」

 他国の人に噂が伝わり、それを自国に持ち帰ってしまったのだろう。
 陛下の話によると、友好関係にある近隣諸国から、事実確認を求める声があがっているらしい。
 聖女の存在は、他国にとっても重要なことだったようだ。

「聖女はわが国の象徴に他ならない。それに疑いが向けられるなど、本来はあってはならないこと……だが、すでにことが起きてしまっている。まことに遺憾だが、私も放置するわけにはいかない」

 そう言って、陛下は厳しい視線を私たちに向ける。
 初めて向けられたその視線に、カリナとサーシャが怯えているのがわかった。

「聖女アイラ、カリナ、サーシャ。君たち三人の内一人を本物の聖女とし、他二名を偽物として国外追放とする」
「えっ……」
「そんな……」
「嘘……」

 私たちは耳を疑った。
 衝撃は強すぎて、言葉がすぐに出ない。
 それでも私は長女として、二人の分まで発言する。

「ま、待ってください陛下! 私たちは三人とも聖女です! 偽物なんてただの噂に過ぎません」
「そうだな。私もそう思っているよ」
「で、でしたらなぜ?」
「理由は一つ。そうしなくては、この騒動は収まらないからだ」

 陛下はキッパリとそう言った。
 清々しくまっすぐな声だ。
 私はその威厳に当てられて、しばらく反論できなくなってしまう。
 その間にも陛下は続けて言う。

「君たちは三人とも聖女の資格を持っている。容姿と力がその証明であることは、私もよく知っている。だが、民衆はそれで納得しないだろう。残念ながらすでに、取り返しのつかない所まで来てしまっているのだよ」
「そ、そんな……だからって」
「一人を決められなければ、暴動はさらに激化する。そうなれば強引にでも、君たちのうち二人を処分しなくてはならない」
「処分……?」
「そう、処分だ」

 私も妹たちも、その言葉の意味を察した。
 国外追放というのは、陛下なりの優しさなのだろう。
 そうしなくては、私たちは家族の屍を踏むことになるのだから。

「でも……急にそんな……」
「だろうな。決められないとは思っている。しかし決めてもらわねばならない。刻限を設ける。今日より三日後の日が沈むまで。それまでに結論を出し、再びここへ来なさい」

 三日……
 その間に、誰を見捨てるか決めろという話だった。
 姉妹の中から一人だけ、聖女としてこの国に残ることが出来る。

「国外追放となる二名にも、当面の活動資金は用意しよう。後で屋敷に持って行かせる。確認しておくと良い」
 
 お金をやるから心配するな。
 とでも言っているのだろうか。
 陛下なりの配慮かもしれないけど、やっていることはめちゃくちゃだ。

「ゆっくり考えなさい」
「……失礼します」

 そうして、私たちは王座の間を後にした。
 チラリと王子の顔が見える。
 心が落ち込んでいる私たちは、彼のいやらしい視線にも気づけなかった。
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