聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 デリント王子を睨みつけるのは、同じく王子のハミル。
 その隣にナベリスと、倒れた兵士たちを横へ蹴り飛ばすタチカゼもいる。

「な、なんだお前たちは! どうしてここに……」
「馬鹿か? 外にあんな目立つ馬車を停めておいて」

 ナベリスが小馬鹿にするように煽る。
 珍しく彼も感情的になっているのが、眉間によったシワでわかるだろう。

 タチカゼが堂々と近づく。

「どけよ。そいつらから離れろ」
「く、来るな!」
「邪魔だ」
 
 肩に手を当て吹き飛ばす。
 デリントは軽々浮き、横に跳んで倒れ込んだ。

「ぐっ……」
「大丈夫か? まだ何もされてねぇな」

 タチカゼが縄を斬る。

「おじさん!」
「おう。無事でよかったぜ」
「博士……」
「怪我はないな?」
「ありがとう、ハミル」
「いいや、遅くなってすまない。それとまだ――終わってないな」

 彼らはデリントに目を向ける。
 立ち上がり、ハミルを睨みつけている。

「貴様ら……ワタシはイタリカ王国第一王子だぞ! そいつらは私の所有物だ!」
「ああ、やっぱりこいつがそうなのか。聞いてた通りクズだな」
「なっ……貴様!」
「それしかいえないのか? 見た目通り脳も小さいようだ」
「お前さんは状況がわかってないみたいだな」

 そう言ってタチカゼが剣を向ける。
 中途半端に度胸のあるデリント王子は、切っ先を向けられながらも不敵に笑う。

「いいのか? そんなことをして……他国の王子に手を出せば、国家問題になるぞ?」
「それはこちらのセリフだな」
「はぁ?」
「あいさつがまだだったな? 俺はアトワール王国第二王子ハミル・ウェルネス」
「だ、第二王子だと?」

 さすがのデリント王子も驚き後ずさる。

「我が国の領土に断りもなく入ってくるとは、そちらこそ礼儀がなっていないな? 加えて、俺の妻になるアイラにした仕打ち……それは宣戦布告か?」
「なっ……妻だと」
「頭の足りない君に教えておくと、この国は現在七つの国と同盟関係にある」
「オレたちを敵に回すってことは、その全部を含むってことだ。まぁオレは、このままぶった切ってもいいと思うんだけどよぉ」
「ひ、ひぃ!」

 ようやく状況を理解したのか。
 デリント王子は無様に怯えている。
 そんな彼を見て、ナベリスが言う。

「まぁ待て、それでは証拠が残ってしまう。実はここに失敗した薬品があってな。なに、大した効果はないが、全身がしびれて意識と記憶がとぶ程度だ」
「おっ、そいつはいいな」
「ま、待ってくれ!」
「ならば二度と我が国へ入るな。二度目があれば、今度こそ全霊をもってお相手しよう」

 三人から脅され、デリント王子はやむなく家を出る。
 寝ている兵士をたたき起こし、逃げるようにして馬車を走らせた。

「ふぅ、また来るかもな」
「そうだな」
「あーいうのは懲りねぇ。そんときはオレが戦ってやるぞ」

 三人が振り返ると、各々の彼女が微笑んでいる。
 聖女らしく祈りを捧げるように、手を胸の前で組み、全身全霊の感謝を――

「「「ありがとう」」」

 笑顔と言葉に乗せて送る。
 彼らは皆、三姉妹の違いを知り始めていた。
 それでも同じだと、この瞬間に気付く。
 なぜなら彼らは、聖女たちの穢れない魂に惹かれたのだから。

 運命の出会いは交錯する。
 三姉妹が紡いだ絆は、この先もずっと続いていくだろう。
 幸福な未来に向かって、一筋でまっすぐに。
 彼女たちしかたどり着けない、聖女だけの物語。
 そのエピローグへ。
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