幼女になった若返りの大聖女は孤高のぼっち研究三昧ライフを送りたい!!
「……本日より君たちの家庭教師を務めるシルヴィエ・リリエンクローンだ」
「……」
「……嘘だ」
目の前にいるのは、この国の第二王子ルーカスと第三王子レオン。
茶色い髪に青い眼の方がルーカス、十歳。赤毛に緑の眼の方がレオン、九歳。
彼らは目を丸くして自分達よりも年下に見えるシルヴィエを見つめていた。
「確かにこんな姿だが」
結局、一週間経ってもシルヴィアが元に戻ることは無かった。
そうしている間に王に返事をした期限が来てしまったのだ。
しかたなくちんまりとした体にエリンの用意した子供服を纏った姿で二人の前に現われたのだが、当然彼らは納得するはずもない。
「どうしてそんな嘘を吐くんだ」
少し気の強そうな顔つきのルーカスが口を尖らせてそう言った。
「大賢者シルヴィエはおばあさんのはずだぞ!」
「確かにそうだ。今は理由あってこんな姿だが中身に変わりはない」
シルヴィエはルーカスの言葉に動じることなく淡々と答えた。
「ねぇ、君……僕達と遊びたいなら正直にどこの誰か言いなよ」
「だから私はシルヴィエだと言っているだろう!」
シルヴィエが強い語気でそう答えると、びくりと方を震わせてレオンの目に大粒の涙が浮かんだ。
「だって……」
そんなレオンを庇うようにルーカスはシルヴィエの前に立った。
「じゃあ何か証拠を見せてみろ!」
「そうだねぇ」
シルヴィエはペンを手に取ると、ノートにガリガリと魔法陣をかき込む。その複雑な術式と書き込むスピードに二人の王子は目を見張った。
「……どうだい?」
シルヴィエが得意気に二人をみると、その手際に見惚れていた王子達はハッとした。
「でたらめかもしれないじゃないか。これはなんの術だ?」
「精霊獣フェンリルの召還陣だよ」
「なら……出してみろよ」
「いいだろう」
シルヴィエはその体には大きすぎるロッドを振った。そして召還陣に魔力を注ぐ。
「わ……」
まばゆい光が王子達の視界を奪った。
そしてその光が収まった後には――。
『クウン……』
「ありゃ……」
それは確かにフェンリルだった。……ただし子供のフェンリルだ。
『あるじー……およびですかー』
「う、うん」
シルヴィエは自分の手を見つめた。確かに成獣のフェンリルを呼び出したはずが、出て来たのは幼獣。
「ちっ!」
これほどまでに魔力が激減しているとは……シルヴィエは苛立ちを覚えて舌打ちをした。
一方、王子達は目の前に現われたフワフワの白い毛をした子犬にしか見えない精霊獣にわっと駆け寄った。
「かわいい!」
「もふもふ!」
「そ、そうだろうそうだろう。さ、今日はそのフェンリルとかけっこをしよう」
「はーい先生!」
どうやら一応、彼らはシルヴィエを教師だと認めてくれたようだった。
しかしシルヴィエは予想外の子フェンリルの出現に関しては適当に誤魔化すしかなかった。
「ふーっ」
「お帰りなさい、お師匠様……あら、どうしたんですか、その子」
「いや、色々あってね」
シルヴィエは適当に運動させて王子達の体力を発散させると、授業を切り上げて家に帰ってきた。子フェンリルを連れて。
「明日も遊ぼうね」
『いいよー』
王子達は明日もフェンリルと遊ぶ気満々だった。なのでとりあえず連れて帰ってきたのだ。
「すまないね」
『いいえ、たのしかったです。でも……』
「なんだい」
『そろそろなまえをつけてくれませんか』
「名前……そうだね、クーロ……クーロはどうだい」
『ありがとうー』
クーロは尾を振って嬉しそうにしている。こうしているとただの犬とたいして変わらない。
「ふふ、ではクーロ。こっちにいらっしゃい。美味しいお肉がありますよ」
『ほんとう?』
「エリン、すぐに還すのだからあんまり甘やかさないでおくれよ」
「いいじゃないですかこれくらい。あ、お師匠様。お客様が来ていますよ」
「なんだい、それを早く言っておくれ」
シルヴィエはクーロをエリンに託して応接間に向かった。
「……カイ」
そこに居たのは見覚えのある黒髪に茶色い瞳の青年……カイだった。
たしかカイはこれまでの働きを称えられ、領地と褒賞を貰って王城から去ったと思ったのだが……。
「どうしたんだ」
「いや……ばあさ……シルヴィエはどうしているかなって」
「ふん、こんな所に居ないで地元に顔でも出したらどうだ。カイはいまや救国の英雄だろう。どこに行ったって大歓迎されるだろうし」
「……行って帰ってきたところだよ」
カイはその割には浮かない顔をしている。
「……リアと両親の墓前にようやく挨拶が出来た」
「あ……そうか……」
カイの故郷は魔王軍の攻撃を受けほぼ壊滅した。その際にカイの両親と妹は犠牲になったのだった。
そのことを思い出したシルヴィエは、悪いことをしたと顔を曇らせた。
「ま、茶くらい出そう。ちょっと待っててくれ」
「いや、もう帰るよ」
「そうか? いいのか? 来たばかりだろう?」
「シルヴィエの顔を見たら満足した」
「……? そうか」
カイはソファから立ち上がると、しゃがみ込んでシルヴィエと目線を合わせた。
「思ったより元気そうだったからもういいんだ」
そうしてポンポンとシルヴィエの頭を撫でた。
「よしよし」
「だから、子供扱いはよせ!」
「ははは、すまんすまん」
そう言ってカイはシルヴィエの館から去った。
「なんだったんだ」
窓の向こうから遠ざかっていくカイの後ろ姿を見つめながら、シルヴィエはぶつぶつと呟いた。
「変な奴だ……ふあああ……なんか眠くなってきた……」
シルヴィエは急に襲いかかってきた眠気になんとか抗おうとしたが無理だった。
そう言えば子供達と一緒になって走り回ってしまったことを思い出しながら、シルヴィエはことんとソファの上で眠り込んでしまった。
「あらら……」
どうも静かな応接間の様子を見に来たエリンは、ソファの上ですやすやと眠るシルヴィエを見て苦笑した。
「ブランケットを持ってきましょうねぇ」
そう言ってそーっとシルヴィエの上にブランケットを掛けると、静かに応接間のドアを閉めた。
「……」
「……嘘だ」
目の前にいるのは、この国の第二王子ルーカスと第三王子レオン。
茶色い髪に青い眼の方がルーカス、十歳。赤毛に緑の眼の方がレオン、九歳。
彼らは目を丸くして自分達よりも年下に見えるシルヴィエを見つめていた。
「確かにこんな姿だが」
結局、一週間経ってもシルヴィアが元に戻ることは無かった。
そうしている間に王に返事をした期限が来てしまったのだ。
しかたなくちんまりとした体にエリンの用意した子供服を纏った姿で二人の前に現われたのだが、当然彼らは納得するはずもない。
「どうしてそんな嘘を吐くんだ」
少し気の強そうな顔つきのルーカスが口を尖らせてそう言った。
「大賢者シルヴィエはおばあさんのはずだぞ!」
「確かにそうだ。今は理由あってこんな姿だが中身に変わりはない」
シルヴィエはルーカスの言葉に動じることなく淡々と答えた。
「ねぇ、君……僕達と遊びたいなら正直にどこの誰か言いなよ」
「だから私はシルヴィエだと言っているだろう!」
シルヴィエが強い語気でそう答えると、びくりと方を震わせてレオンの目に大粒の涙が浮かんだ。
「だって……」
そんなレオンを庇うようにルーカスはシルヴィエの前に立った。
「じゃあ何か証拠を見せてみろ!」
「そうだねぇ」
シルヴィエはペンを手に取ると、ノートにガリガリと魔法陣をかき込む。その複雑な術式と書き込むスピードに二人の王子は目を見張った。
「……どうだい?」
シルヴィエが得意気に二人をみると、その手際に見惚れていた王子達はハッとした。
「でたらめかもしれないじゃないか。これはなんの術だ?」
「精霊獣フェンリルの召還陣だよ」
「なら……出してみろよ」
「いいだろう」
シルヴィエはその体には大きすぎるロッドを振った。そして召還陣に魔力を注ぐ。
「わ……」
まばゆい光が王子達の視界を奪った。
そしてその光が収まった後には――。
『クウン……』
「ありゃ……」
それは確かにフェンリルだった。……ただし子供のフェンリルだ。
『あるじー……およびですかー』
「う、うん」
シルヴィエは自分の手を見つめた。確かに成獣のフェンリルを呼び出したはずが、出て来たのは幼獣。
「ちっ!」
これほどまでに魔力が激減しているとは……シルヴィエは苛立ちを覚えて舌打ちをした。
一方、王子達は目の前に現われたフワフワの白い毛をした子犬にしか見えない精霊獣にわっと駆け寄った。
「かわいい!」
「もふもふ!」
「そ、そうだろうそうだろう。さ、今日はそのフェンリルとかけっこをしよう」
「はーい先生!」
どうやら一応、彼らはシルヴィエを教師だと認めてくれたようだった。
しかしシルヴィエは予想外の子フェンリルの出現に関しては適当に誤魔化すしかなかった。
「ふーっ」
「お帰りなさい、お師匠様……あら、どうしたんですか、その子」
「いや、色々あってね」
シルヴィエは適当に運動させて王子達の体力を発散させると、授業を切り上げて家に帰ってきた。子フェンリルを連れて。
「明日も遊ぼうね」
『いいよー』
王子達は明日もフェンリルと遊ぶ気満々だった。なのでとりあえず連れて帰ってきたのだ。
「すまないね」
『いいえ、たのしかったです。でも……』
「なんだい」
『そろそろなまえをつけてくれませんか』
「名前……そうだね、クーロ……クーロはどうだい」
『ありがとうー』
クーロは尾を振って嬉しそうにしている。こうしているとただの犬とたいして変わらない。
「ふふ、ではクーロ。こっちにいらっしゃい。美味しいお肉がありますよ」
『ほんとう?』
「エリン、すぐに還すのだからあんまり甘やかさないでおくれよ」
「いいじゃないですかこれくらい。あ、お師匠様。お客様が来ていますよ」
「なんだい、それを早く言っておくれ」
シルヴィエはクーロをエリンに託して応接間に向かった。
「……カイ」
そこに居たのは見覚えのある黒髪に茶色い瞳の青年……カイだった。
たしかカイはこれまでの働きを称えられ、領地と褒賞を貰って王城から去ったと思ったのだが……。
「どうしたんだ」
「いや……ばあさ……シルヴィエはどうしているかなって」
「ふん、こんな所に居ないで地元に顔でも出したらどうだ。カイはいまや救国の英雄だろう。どこに行ったって大歓迎されるだろうし」
「……行って帰ってきたところだよ」
カイはその割には浮かない顔をしている。
「……リアと両親の墓前にようやく挨拶が出来た」
「あ……そうか……」
カイの故郷は魔王軍の攻撃を受けほぼ壊滅した。その際にカイの両親と妹は犠牲になったのだった。
そのことを思い出したシルヴィエは、悪いことをしたと顔を曇らせた。
「ま、茶くらい出そう。ちょっと待っててくれ」
「いや、もう帰るよ」
「そうか? いいのか? 来たばかりだろう?」
「シルヴィエの顔を見たら満足した」
「……? そうか」
カイはソファから立ち上がると、しゃがみ込んでシルヴィエと目線を合わせた。
「思ったより元気そうだったからもういいんだ」
そうしてポンポンとシルヴィエの頭を撫でた。
「よしよし」
「だから、子供扱いはよせ!」
「ははは、すまんすまん」
そう言ってカイはシルヴィエの館から去った。
「なんだったんだ」
窓の向こうから遠ざかっていくカイの後ろ姿を見つめながら、シルヴィエはぶつぶつと呟いた。
「変な奴だ……ふあああ……なんか眠くなってきた……」
シルヴィエは急に襲いかかってきた眠気になんとか抗おうとしたが無理だった。
そう言えば子供達と一緒になって走り回ってしまったことを思い出しながら、シルヴィエはことんとソファの上で眠り込んでしまった。
「あらら……」
どうも静かな応接間の様子を見に来たエリンは、ソファの上ですやすやと眠るシルヴィエを見て苦笑した。
「ブランケットを持ってきましょうねぇ」
そう言ってそーっとシルヴィエの上にブランケットを掛けると、静かに応接間のドアを閉めた。