幼女になった若返りの大聖女は孤高のぼっち研究三昧ライフを送りたい!!
「よーし、いい構えだ。そのまま真っ直ぐに振り下ろす」
「はい!」
「……」
その日、シルヴィエはいつにも増して不機嫌だった。
それはこのカイのせいである。
いつものように家庭教師の為に王城に出仕してみれば、カイがいたのだ。
「仕方ないだろ、剣術の指南と護衛を頼まれたんだ」
「護衛という名の見張りだろ」
「……そう思うならそうなんだろうさ」
なんだその言い方は! とシルヴィエは唇を噛んだ。
とはいえ護衛がついた訳をなんとなく察するにあの事件が原因だろうと思うとこれ以上強くは出られない。
「ふ、ご機嫌斜めだな。シルヴィエもやるか?」
「やらん!」
「そっか。さ、今日はここまでだ。部屋に戻ろう!」
「はーい」
カイがそう王子達に声をかけると、素直にルーカスもレオンも素直に返事をして子供部屋へと向かった。
シルヴィエはそれも気に入らなくてぶすっとしたままカイを睨んだ。
「そう怖い顔をするな。よっ……と」
カイはそんなシルヴィエをひょいっと担ぎ上げた。
「ほら行くぞ」
「やめろ、下ろせ、歩ける!」
「この方が早い」
「く~~~~っ」
結局、カイに抱っこされたままシルヴィエは子供部屋へと連行された。
「下ろせっ」
「はいはい」
「ぷくく……」
バタバタしているシルヴィエとそれを軽くいなしているカイを見て、王子達は笑いを堪えている。
「なに笑ってる! さ、授業をはじめるぞ!」
シルヴィエは椅子によじ登り、王子達を睨めつけながらトントン、とロッドで床を叩いた。
「今日は魔法の基礎学から!」
「へーい」
「ほーい」
「……でははじめる」
こうしてなんとかこうにか授業を進めるシルヴィエを、カイはにこにこしながら見守っていた。
「はい、今日は終わりだ」
「わーい! クーロと遊んでいい?」
「ああ、行ってこい」
「よし、レオン早く!」
「まって、にいさんっ」
授業が終わり、王子達はいそいそとクーロを連れて庭に飛び出していった。
「騒がしいことだ」
「……さすがだなぁ、『大賢者』だなんて呼ばれるだけある。分かり易かった」
「授業聞いてたのか」
「ああ、ただ見張りしても暇だしな。……あ、そうだ。明日のパーティはどうする。迎えにいくよ」
「……パーティ?」
シルヴィエは、はて? と首を傾げた。
その様子にカイは苦い顔をする。
「馬鹿、俺達魔王討伐隊の功労を称えるパーティだよ。まさか行かないのか?」
「ああ、そんなのもあったな。私はこんなナリだし行かない」
「気にすることないのに」
「元々パーティは嫌いなんだ」
それで早々に欠席の連絡をしたことをシルヴィエはようやく思い出した。
「聖女のカレンだって出てくるのに」
「諦めろ」
「でも……」
まだぶつぶつ言っているカイを無視して、シルヴィエは帰り支度をはじめた。
「まあ、皆によろしくと伝えてくれ」
「自分で言いなよ」
「やなこった」
シルヴィエはそのままバタンと部屋のドアを閉じた。
「ほんとに良かったんですかぁ? パーティに行かないで」
「エリン、あんたまでそんなこと言うのか。ならあんただけでも行けば良かったのに」
二人で夕食を囲んでいると、ふと思い出したかのようにエリンがぽつりと呟いた。
「お師匠様が居ないのにあたしが行けるもんですか。でも……魔王を封印したってことは、国の……いや、世界の英雄ですよ。ちょっとくらい顔を出した方が……って」
「いいんだよ。なんせこんな体だ。見世物みたいになるのはゴメンだからね」
「なら仕方ないですけど。ご馳走……いっぱいだろうなぁ」
「なんだ、エリン。それが目的かい」
シルヴィエはあまりにも色気のない発言をした弟子を呆れた目で見つめた。
エリンは年頃なのに、シルヴィエに負けず劣らずの研究好きで、色恋の気配もない。
シルヴィエは自分のことは棚に上げて、時々エリンのことが心配になる。
「いいのさ、私はこの方が気楽なのだから」
彼女は聖女の頃から清貧を尊び、その後は隠遁生活を送ってきた。
いまさらパーティで見知らぬ貴族とニコニコ社交界ごっこなぞ、したくもない。
シルヴィエは窓から見える王城の灯りをじっと見あげて、今日はとっとと寝てしまおうと思った。
――ドンドンドン!
――ドンドンドン!
「なんだい、なんの音だい!」
夜半過ぎの突然の大きな音に、シルヴィエは飛び起きた。
「エリン!」
「ああ、お師匠様……」
寝間着の上からショールを羽織って廊下に出ると、エリンがオロオロした顔で立っていた。
「なんの騒ぎだい?」
「それが……」
「よお! シルヴィエ!」
エリンの後ろからひょっこり顔を出したのはカイだった。
「カイ! 何時だと思って……うわ、酒くさっ」
「へへへ……ご馳走持って帰ってやったぞー」
「黙れこの酔っ払い!」
シルヴィエは肩に置かれたカイの手を思いっきりつねった。
「シルヴィエ様……申し訳ありません……」
「カレン、あんたまで居るのかい」
「ええ、それだけじゃありません」
カレンはそう言って後ろを振り返った。
そこには魔王討伐隊一の力自慢の斧使いのセザールと、最速を誇った剣士エドモンドが居た。
「久し振りです」
「お元気そうで……」
二人はシルヴィエの姿を見つけると、嬉しそうに頭を掻いた。
「なんだ一体……揃いも揃って」
「シルヴィエ、あんたの為に揃えたんだよ」
「カイ……?」
「あんたがパーティに来ないから、せめて最後の戦いまで一緒だった奴らと祝えたらな、って」
シルヴィエは目を見開いて彼らを見渡した。
魔王討伐隊の面々はそんなシルヴィエに微笑み返した。
「……しかたないね、応接間においで。エリン、こいつらにワインでも持って来ておくれ」
「はい、お師匠様」
一行はワイワイと応接間に向かうと、パーティ会場からかっぱらってきたご馳走を並べはじめた。
そしてエリンが持ってきたワインを杯に注ぐと、それを捧げ持った。
「では、魔王の封印、いや世界の平和を成し遂げた偉大なる大賢者シルヴィエに乾杯!」
カイがそう言って、高々と杯を上げると、皆それに倣って杯を上げた。
「乾杯!」
「くーっ」
「おお、これ良いワインだな」
口々にそんなことを言いながら、料理を摘まむ。
「シルヴィエ、これ美味かったぞ」
「ありがとう」
「どうだ、美味いだろう?」
「……うん」
シルヴィエは少し気恥ずかしい思いをしながら、カイの差し出したロブスターのパイを口にした。
「ありがとう」
「ん、もっと要るか?」
「そうじゃない。皆を連れてきてくれてありがとう」
シルヴィエがそう言うと、カイは照れくさそうに鼻の下を掻いた。
「いいんだって。俺が勝手にしたくてしただけなんだから。……それにしても寝間着姿もかわいいなぁ」
「うわっ、離れろ酒臭い!」
急に抱っこしようとしてくるカイから逃げ回りながら、シルヴィエはなんだか可笑しくなって笑いがこみ上げてきた。
「くそっ……ちょろちょろしやがって」
「やーい、酔っ払い!」
「ちょっと、シルヴィエ様! カイ! 何してるんです!」
カレンの止める声も聞かずに、シルヴィエとカイはしばらく追いかけっこをしていた。
「はい!」
「……」
その日、シルヴィエはいつにも増して不機嫌だった。
それはこのカイのせいである。
いつものように家庭教師の為に王城に出仕してみれば、カイがいたのだ。
「仕方ないだろ、剣術の指南と護衛を頼まれたんだ」
「護衛という名の見張りだろ」
「……そう思うならそうなんだろうさ」
なんだその言い方は! とシルヴィエは唇を噛んだ。
とはいえ護衛がついた訳をなんとなく察するにあの事件が原因だろうと思うとこれ以上強くは出られない。
「ふ、ご機嫌斜めだな。シルヴィエもやるか?」
「やらん!」
「そっか。さ、今日はここまでだ。部屋に戻ろう!」
「はーい」
カイがそう王子達に声をかけると、素直にルーカスもレオンも素直に返事をして子供部屋へと向かった。
シルヴィエはそれも気に入らなくてぶすっとしたままカイを睨んだ。
「そう怖い顔をするな。よっ……と」
カイはそんなシルヴィエをひょいっと担ぎ上げた。
「ほら行くぞ」
「やめろ、下ろせ、歩ける!」
「この方が早い」
「く~~~~っ」
結局、カイに抱っこされたままシルヴィエは子供部屋へと連行された。
「下ろせっ」
「はいはい」
「ぷくく……」
バタバタしているシルヴィエとそれを軽くいなしているカイを見て、王子達は笑いを堪えている。
「なに笑ってる! さ、授業をはじめるぞ!」
シルヴィエは椅子によじ登り、王子達を睨めつけながらトントン、とロッドで床を叩いた。
「今日は魔法の基礎学から!」
「へーい」
「ほーい」
「……でははじめる」
こうしてなんとかこうにか授業を進めるシルヴィエを、カイはにこにこしながら見守っていた。
「はい、今日は終わりだ」
「わーい! クーロと遊んでいい?」
「ああ、行ってこい」
「よし、レオン早く!」
「まって、にいさんっ」
授業が終わり、王子達はいそいそとクーロを連れて庭に飛び出していった。
「騒がしいことだ」
「……さすがだなぁ、『大賢者』だなんて呼ばれるだけある。分かり易かった」
「授業聞いてたのか」
「ああ、ただ見張りしても暇だしな。……あ、そうだ。明日のパーティはどうする。迎えにいくよ」
「……パーティ?」
シルヴィエは、はて? と首を傾げた。
その様子にカイは苦い顔をする。
「馬鹿、俺達魔王討伐隊の功労を称えるパーティだよ。まさか行かないのか?」
「ああ、そんなのもあったな。私はこんなナリだし行かない」
「気にすることないのに」
「元々パーティは嫌いなんだ」
それで早々に欠席の連絡をしたことをシルヴィエはようやく思い出した。
「聖女のカレンだって出てくるのに」
「諦めろ」
「でも……」
まだぶつぶつ言っているカイを無視して、シルヴィエは帰り支度をはじめた。
「まあ、皆によろしくと伝えてくれ」
「自分で言いなよ」
「やなこった」
シルヴィエはそのままバタンと部屋のドアを閉じた。
「ほんとに良かったんですかぁ? パーティに行かないで」
「エリン、あんたまでそんなこと言うのか。ならあんただけでも行けば良かったのに」
二人で夕食を囲んでいると、ふと思い出したかのようにエリンがぽつりと呟いた。
「お師匠様が居ないのにあたしが行けるもんですか。でも……魔王を封印したってことは、国の……いや、世界の英雄ですよ。ちょっとくらい顔を出した方が……って」
「いいんだよ。なんせこんな体だ。見世物みたいになるのはゴメンだからね」
「なら仕方ないですけど。ご馳走……いっぱいだろうなぁ」
「なんだ、エリン。それが目的かい」
シルヴィエはあまりにも色気のない発言をした弟子を呆れた目で見つめた。
エリンは年頃なのに、シルヴィエに負けず劣らずの研究好きで、色恋の気配もない。
シルヴィエは自分のことは棚に上げて、時々エリンのことが心配になる。
「いいのさ、私はこの方が気楽なのだから」
彼女は聖女の頃から清貧を尊び、その後は隠遁生活を送ってきた。
いまさらパーティで見知らぬ貴族とニコニコ社交界ごっこなぞ、したくもない。
シルヴィエは窓から見える王城の灯りをじっと見あげて、今日はとっとと寝てしまおうと思った。
――ドンドンドン!
――ドンドンドン!
「なんだい、なんの音だい!」
夜半過ぎの突然の大きな音に、シルヴィエは飛び起きた。
「エリン!」
「ああ、お師匠様……」
寝間着の上からショールを羽織って廊下に出ると、エリンがオロオロした顔で立っていた。
「なんの騒ぎだい?」
「それが……」
「よお! シルヴィエ!」
エリンの後ろからひょっこり顔を出したのはカイだった。
「カイ! 何時だと思って……うわ、酒くさっ」
「へへへ……ご馳走持って帰ってやったぞー」
「黙れこの酔っ払い!」
シルヴィエは肩に置かれたカイの手を思いっきりつねった。
「シルヴィエ様……申し訳ありません……」
「カレン、あんたまで居るのかい」
「ええ、それだけじゃありません」
カレンはそう言って後ろを振り返った。
そこには魔王討伐隊一の力自慢の斧使いのセザールと、最速を誇った剣士エドモンドが居た。
「久し振りです」
「お元気そうで……」
二人はシルヴィエの姿を見つけると、嬉しそうに頭を掻いた。
「なんだ一体……揃いも揃って」
「シルヴィエ、あんたの為に揃えたんだよ」
「カイ……?」
「あんたがパーティに来ないから、せめて最後の戦いまで一緒だった奴らと祝えたらな、って」
シルヴィエは目を見開いて彼らを見渡した。
魔王討伐隊の面々はそんなシルヴィエに微笑み返した。
「……しかたないね、応接間においで。エリン、こいつらにワインでも持って来ておくれ」
「はい、お師匠様」
一行はワイワイと応接間に向かうと、パーティ会場からかっぱらってきたご馳走を並べはじめた。
そしてエリンが持ってきたワインを杯に注ぐと、それを捧げ持った。
「では、魔王の封印、いや世界の平和を成し遂げた偉大なる大賢者シルヴィエに乾杯!」
カイがそう言って、高々と杯を上げると、皆それに倣って杯を上げた。
「乾杯!」
「くーっ」
「おお、これ良いワインだな」
口々にそんなことを言いながら、料理を摘まむ。
「シルヴィエ、これ美味かったぞ」
「ありがとう」
「どうだ、美味いだろう?」
「……うん」
シルヴィエは少し気恥ずかしい思いをしながら、カイの差し出したロブスターのパイを口にした。
「ありがとう」
「ん、もっと要るか?」
「そうじゃない。皆を連れてきてくれてありがとう」
シルヴィエがそう言うと、カイは照れくさそうに鼻の下を掻いた。
「いいんだって。俺が勝手にしたくてしただけなんだから。……それにしても寝間着姿もかわいいなぁ」
「うわっ、離れろ酒臭い!」
急に抱っこしようとしてくるカイから逃げ回りながら、シルヴィエはなんだか可笑しくなって笑いがこみ上げてきた。
「くそっ……ちょろちょろしやがって」
「やーい、酔っ払い!」
「ちょっと、シルヴィエ様! カイ! 何してるんです!」
カレンの止める声も聞かずに、シルヴィエとカイはしばらく追いかけっこをしていた。