ワケあり女子高生、イケメン生徒会と同居します。
* * *

私は部屋を出るなり、かすかな人の声を頼りにそーっと階段を下りて1階へ。

リビングらしき部屋のドアからは、賑やかな話し声が漏れていた。

なんか……楽しそう?

少し開いたリビングのドアの取っ手を握り、私はゆっくりと手前に引いた──────────︎︎

「……っ!」

ドアを開ければ、一気に明るくなる視界。

大きな窓から差し込む朝日がリビングを明るく照らしている。

真っ白な壁紙に、木目が基調のインテリア。

美味しそうな朝ごはんの匂いと心地いいご飯を作る音……。

そして──────────

「あ、恋々愛ちゃん!」

目の前には見知った顔が5人。

私は驚きすぎて瞬きが止まらないでいた。

え、ここって……。

「おはよう、恋々愛」

呆然と立ち尽くす私にそう声をかけたのは、ダイニングチェアに座って昨日と同じく眠たげな瞳の梅乃くん。

同じく食卓を囲むのは、楓くん、梓川くん、林山くん。

そしてリビングの奥のキッチンには葉森くん……。

もしかしてここ、5人が一緒に暮らしてるっていう男子寮?

想像もしていなかった展開に頭がついていかない。

「えっと……?」

どうして私ここにいるの??

昨日、あのあとどうなったの???

……色々聞きたいことはあるのに、何も言葉が出てこない。

「恋々愛ちゃんもとりあえず座って? お腹すいたでしょ?」

キッチンからひょこっと顔を出して私をダイニングチェアへ促す葉森くん。

そういえば、何でキッチンに葉森くんが……?

朝ごはん、葉森くんが作ってるのかな?

寮母さんは??

これまた疑問がたくさん浮かぶ。

「恋々愛」

っ。

未だ慣れきれていない名前呼びに、私はピクっと反応して声の主へと視線を移す。

「おいで」

梅乃くんはいつものポーカーフェイスで小首をかしげながらそう言った。

あ、あざとい……っ。

顔の良さが際立つ言動に、私は胸が疼くのを感じながらいそいそと梅乃くんに促された場所へと向かう。

ーコトンっ。

ダイニングチェアに座れば、目の前には昨日ぶりの生徒会の面々。

文庫本に視線を落としながら、静かに読書をする梓川くん。

気だるそうにスマホをいじる楓くん。

そして、頬杖をつきながら私の顔を覗き込む林山くん……。

ち、近い!!

完全に昨日のデジャヴ。

私はスーッと林山くんから目を逸らして梅乃くんの方を見つめた。

「私、全然昨日の記憶がないんだけど、公園で2人と会ったあとって……?」

とりあえず一番気になることから聞いていこう。

恐る恐る梅乃くんに尋ねてみれば、梅乃くんは相変わらずのポーカーフェイスで……。

「寝た」

「ん!? ……え、えっと……」

あまりにも端的過ぎる回答に、私も言葉が詰まる。

寝たって……。

私は目をぱちくりさせながら、詳細を話してくれるのを待つけど、梅乃くんはジーッと私を見つめたまま口を開かない。

え、終わり!?

「公園で会ったあと──────────」

???

私は梅乃くんに向けていた視線を、声のした方へ向ける。

梓川くんは文庫本に目を落としながら、淡々と話し始めた。

「優羅の顔を見て、桜川は安心したように眠った」

えっ……嘘……私、あのまま寝たの?

それに男の子の前で寝るなんて……。

私は梓川くんの言葉に戸惑いが隠せない。

「かなり疲弊している様子だった。そのあとは、優羅が桜川を背負ってここまで」

「えっ!?」

背負って!?

梅乃くんが、私を!?

もう驚きのあまり開いた口が塞がらない。

当の本人を見つめるけど相も変わらずポーカーフェイスのままで……。

「そりゃビックリだよね? おんぶなんてさ。そこはお姫様抱っこじゃないと!」

「恋々愛、お姫様抱っこが良かったの?」

「あ、いや、そういう問題じゃ……」

天真爛漫な林山くんの発言に、キョトンと首を傾げながら私に問いかける梅乃くん。

どう抱えるかの問題じゃなくて、抱えられたことにびっくりなんだよ!

「ごめんなさい!」

私は慌てて梅乃くんにか向かって頭を下げた。

初めて会ったその日に寝落ちして運んでもらうなんて申し訳なさすぎる!

そしてすっごく恥ずかしい!!

あぁ、私ホントに何やってるんだろう……。

「まぁまぁ恋々愛ちゃん、そこは気にしないで! ここからが本題なんだから」

「え?」

その言葉と同時に「はい」と私の前に出来たての朝ごはんを並べる葉森くん。

ここからが本題ってどういうこと?

一体何の話を……。

「先に飯食ってからな」

楓くんの言葉に顔をあげれば、いつの間にかみんな手を合わせていて……。

ーパチンッ。

私も慌てて手を合わせる。

「いっただっきまーす!」

「「「「いただきます」」」」

またまた昨日のデジャヴだ。

「恋々愛ちゃんも冷めないうちに食べて! ふーくんのごはんほっぺた落ちるぐらい美味しいから!」

恐らく通常運行で進んでいるのであろう、みんなの日常生活に、なかなかついていけない私。

そんな私に、林山くんはほっぺを抑えながら満面の笑みでそう言った。

「う、うん……」

やっぱりホントに葉森くんが作ったんだ。

おかずも付け合せもお味噌汁も全部……。

優しい匂いを漂わせながらほかほかの湯気を立てる朝食たち。

美味しそう……。

「いただきます」

バクバクと勢いよく食べる男子高校生たちを横目に、私はおかずを一口つまんでパクリ。

……!!!

「美味しい……!」

こんな美味しいごはんが作れるなんて、葉森くんすごすぎる……。

「恋々愛ちゃんの口に合ってよかった。おかわりもたくさんあるからね」

そう言って私に優しく微笑みかける葉森くん。

私はコクンと頷いて次々と美味しい料理に箸を進めた。
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