ワケあり女子高生、イケメン生徒会と同居します。
* * *

「恋々愛ちゃんいーよ!!」

リビングのドアからひょこっと顔を出した林山くん。

「うん」

ダイニングチェアで一人待機していた私は足早にリビングを出てみんなの元へ。

……特別寮に住むと決めてから数分後。

「恋々愛ちゃんのお部屋を作ろう!」

林山くんの掛け声とともにそれは始まった。

特別寮に空き部屋は1部屋しかなく、すっからかんの部屋で、ベッドも机もカーテンすらなくて。

そこで、みんなと近くの家具屋さんに行って家具を一式買い揃えることに。

しかし……。

「恋々愛はこれ」

ベッドやデスク、棚など重い家具をたくさん買ったにも関わらず、私が持ったのは小さなデジタル時計だけ。

みんな担いだり袋を両手に抱えたり大変だったのに。

さらには……。

「恋々愛ちゃんはリビングで休んでて? 環境も変わって疲れもあるだろうし」

5人とも家具の組み立てで3時間ぐらい私の部屋にこもりっきりなのに、私は何も手伝うことなくリビングで座ってるだけで……。

何回か手伝おうとリビングを出ても……。

「あー! 恋々愛ちゃんまだだめだよ! お楽しみにしてて」

そうやって何度も突き返された。

罪悪感しかなかったけど、テキパキ動くみんなを見ていると、私がいたら逆に足でまといになりそうだな……と思って、黙ってリビングで待機することに。

そしてものの数時間で私の部屋は完成したようで。

リビングを出てすぐの私の部屋にすぐさま向かう。

「本当にありがとう」

私は廊下で待っていた5人に深々と頭を下げた。

買い物から組み立てて設置まで、どれだけ大変だったことか。

それもみんな、当たり前のようにしてくれて。

……ほんとにみんな、いい人ばっかりだ。

「礼なら部屋見てからだろ。凛音が見せたくてウズウズしてるぞ」

そっと頭をあげれば、半ば呆れ気味の楓くんの視線の先にはそわそわしている林山くんの姿が。

私も楽しみで内心ウズウズしてる。

みんなが数時間かけて頑張って作ってくれたお部屋なんだもん。

早く見たくてたまらない。

「開けるよ?」

「うん!」

ーガチャ。

私が大きく頷けば、林山くんは満面の笑みを浮かべて部屋のドアを開けた。

わぁ……!

パアッと明るい室内。

全部私の好きなものを選ばせてくれたから私好みの部屋で……。

ベッドもデスクも棚も、全てキレイに完成されていた。

さっきまで何も無かった部屋が、ちゃんと“部屋”になってる。

その完成度とみんなの手際の良さに感動が止まらない。

「すごい……本当にみんなありがとう!」

私は再びくるっとみんなを振り返る。

……しかし、みんなは目を見開いたり驚いた顔をしていて……。

???

「恋々愛ちゃんの笑顔……初めて見た」

あっ……。

私は慌てて口元を手で覆った。

心の底から嬉しさが込み上げてきて、多分いま、顔が緩みきってると思う。

は、恥ずかしい、こんな顔……!!

「めちゃくちゃ可愛すぎる〜〜!!」

ーギュゥゥ。

!?!?

満面の弾ける笑顔で私の元に駆け寄ってきた林山くんは、勢いよくガバッと私に抱きついた。

それと同時に、サァーッと顔の血の気が引く感覚がして……。

わ、私っ、男の子に……──────────!!!

「いや!!」

ードンッ!

私は林山くんの胸元を、力の限り突き飛ばした。

……あっ!!

突き飛ばした後に、すぐさま私はハッと我に返る。

私、いま林山くんを……!

「おっとっと」

林山くんは少し体勢を崩しながらも、コケる前になんとか立て直した。

「ご、ごめんなさい!」

私は慌てて林山くんに頭を下げる。

咄嗟のこととはいえ、思いっきり突き飛ばすなんて……。

申し訳ない……。

「今のは凛音が悪い」

静かに響いたその声に、私はゆっくりと頭を上げた。

梓川くん……。

「そうだよ。恋々愛ちゃんが謝ることじゃないよ」

「さっき恋々愛に嫌がることしないって約束したのに」

「お前なぁ……」

葉森くんに梅乃くん、楓くんまで……。

「ごめん……恋々愛ちゃんが可愛くてつい」

林山くんは苦笑いしながら、気まずそうに人差し指で頬をかく。

林山くんの可愛らしい満面の笑みをこんな苦笑いに変えさせてしまった。

林山くんもわざとじゃないんだし、咄嗟にこんな風に突き飛ばすの、どうにかしないと。

……もう少し耐性をつけなきゃ。

私は心の中で気合いを入れ直す。

「ふぁああ。……そろそろ飯作るか」

大きく伸びをしながらあくび混じりにそういったのは楓くん。

……ん?

“飯作る”って……。

「お腹空いたー! 今日のご飯なにー?」

「さあ。冷蔵庫確認してくるわ」

ん? んん?

普通に会話しながら林山くんとリビングへ消えていった楓くん。

私は2人が向かった先を見ながら瞬きが止まらない。

「ご飯って葉森くんじゃ……?」

朝は葉森くんがキッチンで朝ごはん作ってたよね?

「あぁ、ご飯はね、俺と涼が交代で作ってるんだ」

葉森くんはニコッと微笑みながら私に教えてくれた。

なるほど……そーいえば、ここの家事事情聞いてなかったな……。

それに寮費のことや、そもそも生徒会じゃないのに入寮することも。

「恋々愛」

聞き慣れた私の名前を呼ぶ声に、私は声の主を見上げる。

「また難しい顔してる」

そこには相変わらずのポーカーフェイス。

「ちょっと色々考えてて……」

「不安なこととかあったら言ってね? なんでも聞くよ」

葉森くんは私の目線の高さまで腰を曲げると優しく微笑んだ。

「ありがとう。……じゃあ私、荷解きしてくるね」

私は梅乃くんたちに背を向けて出来たてホヤホヤの自室へ。

ーバタン。

「はぁ……」

ドアを閉めた途端、フッと張り詰めていたものが緩んだような気がした。

私はそっとドアにもたれかかる。

今日一日、なんだかんだみんなの顔色や様子を伺いながら行動してたから、ちょっと気疲れしちゃったかな……。

みんなが優しいのは分かってるんだけど。

まだ一気には気を許せてないんだろうな……。

……でも──────────

私はみんなが作ってくれた部屋をゆっくりと見渡す。

それだけでポカポカと心が温まっていく気がして……。

いつか……みんなと普通に接することができるといいな──────────





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