ワケあり女子高生、イケメン生徒会と同居します。
* * *
「ありがとうございました」
教室への戻り方がわからない私は、葵くんに案内してもらって、無事に教室に帰ってくることができた。
「いえいえ。では、また」
そうスマートに会釈をしてくるりと踵を返した葵くんは、隣の3年1組の教室へ。
不思議な人だったな……。
それに、葵くん自身はご飯を食べたのだろうか……。
それもまた謎。
私は葵くんの後ろ姿を見届けていた視線を目の前の3年2組の扉へと向けた。
もう昼食を食べ終えて昼休みを過ごしている人もチラホラ。
……よしっ。
私はふうっと気を引き締め直して教室の扉に手をかける。
-ガチャ……。
扉を開ければ、明るい光とともにみんなの話し声が漏れ出てきた。
教室は思った通り人が少なくて、騒がしさも休み時間の半分ほど。
良かった……これならお弁当も食べやす──────────
………………。
……えっ?
ホッと心を撫で下ろしたのも束の間。
自分の席の方へ視線を移すと、教室の中で一際輝いている集団が目に入った。
それは紛れもなくあの5人で……。
「あっ、恋々愛ちゃん」
「恋々愛ちゃん!? ……ほんとだ!! やっと帰ってきた!」
林山くんは葉森くんの言葉に勢いよくこちらを振り返り、私を見つけて満面の笑みを浮かべる。
全員揃って席に座っていることに驚きを隠せないまま、ゆっくりと自分の席へ足を進めれば、みんなの机の上に置いてあるものが目に入って──────────
「えっ……まだお弁当食べてないの?」
みんなの机の上には手つかずのお弁当。
どうして……。
「恋々愛を待ってた」
「えっ!?」
思ってもみなかった言葉に、私は目を見開いて梅乃くんを見つめる。
待ってた……? 私を!?
驚きすぎて瞬きが止まらない。
なんで……だって、一緒に食べる約束もしてないのに。
「恋々愛ちゃん、一人で食べようとしてたでしょ? 授業が終わったと同時に鞄持って出て行ってさ」
-ギクッ。
葉森くんの指摘にうまく笑顔が繕えない。
……バレてたんだ。
「でも、それなら尚更待たなくても……」
「教室以外に食べれるところないし? 行儀のいい恋々愛ちゃんはさすがに廊下とか階段で食べないだろうし? じゃあ、食べずに帰ってくるだろう! と思って!」
っ!!
またも図星……。
ニコニコ笑顔で頬杖をつきながら自慢げに話す林山くん。
そんなとこまで読まれてたなんて……。
「全部優羅が言ったことだろ。何でお前が自慢げに言ってんだよ」
「あー! りょーくんは一人だけフライングしてチョコパン食べたけどねー」
「弁当は我慢してたんだから問題ねぇだろ」
今日何度目かの林山くんと楓くんの言い合いに、もう見慣れてしまった私は静かに自分の席につく。
“全部優羅が言った”ってことは、梅乃くんに行動を読まれてたってこと……だよね?
いまだにどことなく掴めない梅乃くん。
……本当に不思議な人。
「じゃあ恋々愛ちゃんも揃ったことだし、ご飯食べよう!!」
いつの間にか楓くんとの言い合いを終えていた林山くんは、お弁当を目の前にしてパチンっと両手を合わせた。
その声に、私も鞄の中から朝コンビニで買ったお弁当を慌てて取り出す。
なんか、普通のお弁当箱が並ぶ中で、私のコンビニ弁当だけ明らかに浮いてるな……。
「いっただっきまーす!」
「「「「いただきます」」」」
林山くんの元気な声に続き、他の4人も手を合わせて呟いた。
「い、いただきますっ!」
多少面食らいながらも、私も一人遅れて手を合わせた。
コンビニ弁当の包装を剥がしながら、ふと視界に入ったのは林山くんと楓くんのお弁当の中身。
……ん?
違和感を感じた私は梓川くんのや葉森くんのお弁当にも視線を移す。
あれ?
ぐるっと振り返り、梅乃くんのお弁当の中身も確認。
「みんな同じ……」
そう、みんなお弁当箱は違えど、中身は全く一緒。
しかもどう見ても冷凍食品じゃない……。
「同じ寮だからな」
楓くんの答えに、合点がいった私は傾げていた首を戻して「あぁ」と頷いた。
なるほど……寮母さん的な人が作ってくれたりするのかな?
みんなの美味しそうな顔を見ながら、私はコンビニ弁当のおかずをしみじみと噛み締める。
手作りのお弁当、いいなぁ……。
「恋々愛ちゃん、桜庭学園だったんなら実家も遠いよね? 寮暮らし?」
美味しそうな玉子焼きを頬張りながら、葉森くんは首を傾げた。
「あっ、一応寮に入る、つもり……」
葉森くんの言う通り実家は遠く、通えないことはないけど、交通費がかなり嵩む。
そうなると、羅桜高校はアルバイトが出来ないから、お父さんたちの負担が増えてしまう。
……だから、女子寮以外に選択肢はないんだけど──────────
「…………」
今朝からの女の子たちからの視線が鮮明に蘇る。
初日からこんなんで、女子寮でやっていける自信はこれっぽっちもない。
私は笑顔が保てそうになくてそっと俯いた。
……男の子は苦手。
それは本当にそう。
でも、みんな悪い人じゃないのもなんとなく分かって……。
一緒にいることを選んで、それで女の子から煙たがられるんならそれは自己責任。
それは納得してる……。
……だけど、ひとつだけ気がかりなことも──────────
「あー! りょーくん、僕のクロワッサン一個食べたでしょ!!」
「食ってねーよ! 自分がバクバク食ってたんだろーが」
「うるさい……」
「もともとクロワッサン、4個だった」
「ごめん凛音。凛音のだと思わなくて俺が朝食った」
「もー! ふーくん!!」
なんだかんだ楽しそうな5人を横目に、私は一人考え込む。
“どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?”
それが気がかりで……。
私が転校生だから?
それとも気まぐれ??
……それとも──────────
私はそっと梅乃くんを盗み見る。
梅乃くんはパクパクとお弁当を頬張りながら、優しい瞳で林山くんたちのやりとりを見つめていて。
私が思い出せてないだけで、やっぱり梅乃くんと知り合いなのかな?
「…………」
んー……でも私、人の顔とか覚えるの得意な方なんだけどなぁ。
顔も名前も、何一つピンと来ない。
「ん?」
あっ……。
ードクンッ。
私の視線に気づき、不思議そうに首を傾げた梅乃くんとバチッと目が合う。
……まただ。
目が合った瞬間胸が高鳴って、言葉では言い表せないような不思議な感覚に陥る。
この感じ、一体何なんだろう?
むず痒いような安心するような、初めての感覚──────────
「いや……なんでもない!」
私はスッと梅乃くんから目を逸らして、ごはんを頬張った。
もし知り合いだったらいつか思い出す……よね──────────?
「ありがとうございました」
教室への戻り方がわからない私は、葵くんに案内してもらって、無事に教室に帰ってくることができた。
「いえいえ。では、また」
そうスマートに会釈をしてくるりと踵を返した葵くんは、隣の3年1組の教室へ。
不思議な人だったな……。
それに、葵くん自身はご飯を食べたのだろうか……。
それもまた謎。
私は葵くんの後ろ姿を見届けていた視線を目の前の3年2組の扉へと向けた。
もう昼食を食べ終えて昼休みを過ごしている人もチラホラ。
……よしっ。
私はふうっと気を引き締め直して教室の扉に手をかける。
-ガチャ……。
扉を開ければ、明るい光とともにみんなの話し声が漏れ出てきた。
教室は思った通り人が少なくて、騒がしさも休み時間の半分ほど。
良かった……これならお弁当も食べやす──────────
………………。
……えっ?
ホッと心を撫で下ろしたのも束の間。
自分の席の方へ視線を移すと、教室の中で一際輝いている集団が目に入った。
それは紛れもなくあの5人で……。
「あっ、恋々愛ちゃん」
「恋々愛ちゃん!? ……ほんとだ!! やっと帰ってきた!」
林山くんは葉森くんの言葉に勢いよくこちらを振り返り、私を見つけて満面の笑みを浮かべる。
全員揃って席に座っていることに驚きを隠せないまま、ゆっくりと自分の席へ足を進めれば、みんなの机の上に置いてあるものが目に入って──────────
「えっ……まだお弁当食べてないの?」
みんなの机の上には手つかずのお弁当。
どうして……。
「恋々愛を待ってた」
「えっ!?」
思ってもみなかった言葉に、私は目を見開いて梅乃くんを見つめる。
待ってた……? 私を!?
驚きすぎて瞬きが止まらない。
なんで……だって、一緒に食べる約束もしてないのに。
「恋々愛ちゃん、一人で食べようとしてたでしょ? 授業が終わったと同時に鞄持って出て行ってさ」
-ギクッ。
葉森くんの指摘にうまく笑顔が繕えない。
……バレてたんだ。
「でも、それなら尚更待たなくても……」
「教室以外に食べれるところないし? 行儀のいい恋々愛ちゃんはさすがに廊下とか階段で食べないだろうし? じゃあ、食べずに帰ってくるだろう! と思って!」
っ!!
またも図星……。
ニコニコ笑顔で頬杖をつきながら自慢げに話す林山くん。
そんなとこまで読まれてたなんて……。
「全部優羅が言ったことだろ。何でお前が自慢げに言ってんだよ」
「あー! りょーくんは一人だけフライングしてチョコパン食べたけどねー」
「弁当は我慢してたんだから問題ねぇだろ」
今日何度目かの林山くんと楓くんの言い合いに、もう見慣れてしまった私は静かに自分の席につく。
“全部優羅が言った”ってことは、梅乃くんに行動を読まれてたってこと……だよね?
いまだにどことなく掴めない梅乃くん。
……本当に不思議な人。
「じゃあ恋々愛ちゃんも揃ったことだし、ご飯食べよう!!」
いつの間にか楓くんとの言い合いを終えていた林山くんは、お弁当を目の前にしてパチンっと両手を合わせた。
その声に、私も鞄の中から朝コンビニで買ったお弁当を慌てて取り出す。
なんか、普通のお弁当箱が並ぶ中で、私のコンビニ弁当だけ明らかに浮いてるな……。
「いっただっきまーす!」
「「「「いただきます」」」」
林山くんの元気な声に続き、他の4人も手を合わせて呟いた。
「い、いただきますっ!」
多少面食らいながらも、私も一人遅れて手を合わせた。
コンビニ弁当の包装を剥がしながら、ふと視界に入ったのは林山くんと楓くんのお弁当の中身。
……ん?
違和感を感じた私は梓川くんのや葉森くんのお弁当にも視線を移す。
あれ?
ぐるっと振り返り、梅乃くんのお弁当の中身も確認。
「みんな同じ……」
そう、みんなお弁当箱は違えど、中身は全く一緒。
しかもどう見ても冷凍食品じゃない……。
「同じ寮だからな」
楓くんの答えに、合点がいった私は傾げていた首を戻して「あぁ」と頷いた。
なるほど……寮母さん的な人が作ってくれたりするのかな?
みんなの美味しそうな顔を見ながら、私はコンビニ弁当のおかずをしみじみと噛み締める。
手作りのお弁当、いいなぁ……。
「恋々愛ちゃん、桜庭学園だったんなら実家も遠いよね? 寮暮らし?」
美味しそうな玉子焼きを頬張りながら、葉森くんは首を傾げた。
「あっ、一応寮に入る、つもり……」
葉森くんの言う通り実家は遠く、通えないことはないけど、交通費がかなり嵩む。
そうなると、羅桜高校はアルバイトが出来ないから、お父さんたちの負担が増えてしまう。
……だから、女子寮以外に選択肢はないんだけど──────────
「…………」
今朝からの女の子たちからの視線が鮮明に蘇る。
初日からこんなんで、女子寮でやっていける自信はこれっぽっちもない。
私は笑顔が保てそうになくてそっと俯いた。
……男の子は苦手。
それは本当にそう。
でも、みんな悪い人じゃないのもなんとなく分かって……。
一緒にいることを選んで、それで女の子から煙たがられるんならそれは自己責任。
それは納得してる……。
……だけど、ひとつだけ気がかりなことも──────────
「あー! りょーくん、僕のクロワッサン一個食べたでしょ!!」
「食ってねーよ! 自分がバクバク食ってたんだろーが」
「うるさい……」
「もともとクロワッサン、4個だった」
「ごめん凛音。凛音のだと思わなくて俺が朝食った」
「もー! ふーくん!!」
なんだかんだ楽しそうな5人を横目に、私は一人考え込む。
“どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?”
それが気がかりで……。
私が転校生だから?
それとも気まぐれ??
……それとも──────────
私はそっと梅乃くんを盗み見る。
梅乃くんはパクパクとお弁当を頬張りながら、優しい瞳で林山くんたちのやりとりを見つめていて。
私が思い出せてないだけで、やっぱり梅乃くんと知り合いなのかな?
「…………」
んー……でも私、人の顔とか覚えるの得意な方なんだけどなぁ。
顔も名前も、何一つピンと来ない。
「ん?」
あっ……。
ードクンッ。
私の視線に気づき、不思議そうに首を傾げた梅乃くんとバチッと目が合う。
……まただ。
目が合った瞬間胸が高鳴って、言葉では言い表せないような不思議な感覚に陥る。
この感じ、一体何なんだろう?
むず痒いような安心するような、初めての感覚──────────
「いや……なんでもない!」
私はスッと梅乃くんから目を逸らして、ごはんを頬張った。
もし知り合いだったらいつか思い出す……よね──────────?