桜が舞い、君に出逢う。
音瀬那由多が奏でた音は、

さっきのコンクールとは違う。

なにかに吹っ切れた、新しい音だった。

悲しみを込めた演奏ではない、

でも重厚感は変わっていない。

どこか新しい見た事のない場所へ旅に出る、

清々しい朝をイメージさせる、感動する音。

曲を引き終わったあと、

鳥肌に震える腕で拍手をした。

「いい音。やっぱり、音瀬那由多の音、好き。」

「っ!?わ、笑っ...た?」

笑った?私が?

笑ったなんて言われるのが久しぶりで、

頬に手を当てても表情筋は硬いまま。

「ほんとに笑ってた?」

自分で笑ったという自覚がなくて、

改めて聞くと音瀬那由多は顔を

赤くさせながら顔をぶんぶんと縦に降った。
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