御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜
 彼女は、こちらを気にすることなく静かに飲んでいる。俺も、特に話しかけず彼女の隣で静かに飲むことにした。

 ひとりでゆっくり飲むのはいつ以来だろう……。

 親父がなくなって怒涛の一年だった。不思議と彼女が横にいると大変だった忙しい日々を忘れる事が出来る気がする。

 そして気がつくと彼女は、静かに涙を流していた。

 俺は彼女の姿に釘付けになる。

 そして、病院での彼女の言葉が思い出される。

 『泣いたら両親の死を受け入れた事になりそうで、泣けないんじゃなく泣きたくない』と言った彼女。

 一年経って、泣けるまでになったんだと俺は安堵する。後は、俺が全力で幸せにしてやるから覚悟しろよ!と心のなかで叫ぶ。

 そして気づいた時には、彼女はベロベロに酔っ払っていた。端の席の横の壁にもたれ掛かりウトウトしている。もし、横にいるのが俺じゃなかったら、考えただけでも恐ろしい。無防備な彼女が可愛くもあり心配だ。




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