マリオネット★クライシス
「おぅ、上手くいったぜ」
貴志、と呼ばれた茶髪の男はニッと口角を上げ、ライアンの隣の簡易イスへ窮屈そうに腰を下ろした。
「発信機、つけられた?」
「いや、それは無理だったけど、偶然店内でちょっとした騒動があってさ。あいつ、スマホをレジんとこ、置きっぱなしにしやがったんだ」
で、あとはこっちの思い通りってわけ。
満足げに言って、男は「あっちぃ~」とTシャツの襟元をパタパタ揺らした。
「ちょっとした騒動って?」
「よくわかんねえけど、あいつの連れがナンパされたらしいな」
「連れ、か……」
「なぁ、いつまでこんなこと続けるつもりだ?」
口調は冷静だったが、その眼差しに咎めるような色が混ざっていることにライアンは気づいた。
「猫の首に鈴をつけるっていうのは、まぁ悪くないアイディアだから乗っかったけど、上からの指示は奴の身柄の確保だぞ? このまま逃がし続ければ、今度は俺たちが命令違反ってことになる」
貴志の言葉に、モニター前の2人も同調するようにチラチラと顔を見合わせる。
仲間の不満はわからぬわけではない、が……
「もう少しだけ、様子を見たいんだ。彼が本当に僕たちを裏切ったというのなら、一人でやったはずはない。必ず東京で、仲間に接触するはずだから」
「一緒にいる女がそうじゃねえの?」
「彼女は……いや彼女は、違うと思うよ。何も知らないんじゃないかな」
独り言ちるように言い、気遣わし気な――エメラルド色の瞳で、モニターの一つをじっと見つめた。
そこには、続々と人が吸い込まれていくファストフード店の外観が映っていた。