マリオネット★クライシス
「一度目は、いわゆる“子役の壁”。わたし、小学校高学年の頃に身長がやたら伸び出しちゃって」
背が小さくなければ、子役として起用してもらえない。
かといって、JK役ができるほど成熟してもいない。
絶妙に“使えない”位置にいたわたしは、完全に事務所のお荷物的存在となっていた。
「その時の無気力感とか、エンドレスな孤独とか、思い出すだけでもゾッとする」
女優じゃないわたしは――空っぽだった。
毎日がただただ灰色で。
訳の分からない恐怖におびえていた。
たぶん1秒ごとに忘れられて、役に立たない不要な人間になっていくのが怖かったんだと思う。
「もう一度カメラの前に立てた時、思ったの。わたしには、これしかないって。だから……今は仕事に集中したいんだ」
ごめんなさいって謝るわたしを見つめて彼は少し眉を下げたけれど、やがて静かに首を振った。
「こっちこそごめん。ユウにはユウの考えがあるのに、ちょっと強引だったな」
「う、ううんっ、誘ってくれて嬉しかった。ありがとう」
急いで笑顔を浮かべてみせると、チャコールグレイの瞳が束の間、切なげに揺れたように見えた。
「ユウは、ほんとに女優の仕事が好きなんだな」
チリン。