マリオネット★クライシス
演技力はある。
むしろ同年代の中では、かなり上手い方なのだから。
ただ関係者の話では、コトはそれほど簡単ではないらしい。
母親の事件のせいで、彼女には不倫スキャンダルのイメージがついてしまったというのだ。
もちろん彼女のせいではない。
それは皆わかっているが、どうしてもスポンサーありきのテレビでは、忖度せざるをえない状況なのだとか。
であれば、舞台なりネットなり、テレビ以外の場所に活路を見出しファンを増やしていくのが常道なのに……事務所は一体何をやっているのか。
特に、あの猪熊とかいうマネージャーは最悪だ。
忌々しそうに毒づいてから、男は苛立ちを紛らわせるように勢いよく指を滑らせ、撮影した画像を一枚一枚確認していく。
こうして表情の変化を追うと、彼女が連れのジェイという男に次第に気を許し始めていることがよくわかった。
最初のぎこちなさが取れ、相手への遠慮がなくなってきている。
もちろんいい意味でだ。
さて、新たなカップル誕生となるか……
男が楽し気にその口元を綻ばせた、その時。
ドンッ……と、誰かにぶつかった。
カシャン
足元で響いた乾いた音を、眼鏡越しに追う。
落ちていたのはスマホだ。
彼自身のものは手の中に……ということは。
歩きスマホを反省しつつ急いでそれを拾い上げ、数歩先で立ち止まっていた相手へ声をかけた。
「すみません、しっかり前を見てなくて」