マリオネット★クライシス

「電話? 誰に?」

怪訝そうな彼に、わたしは正直に答えた。
「猪熊さん……マネージャー」

「どうして?」
「今夜行かないって、連絡しとかないと。心配させちゃうでしょ?」

馬淵さんに逆らうってことは、今後の活動に支障が出るかもしれないってこと。

でも……それでもいいって、仕事は自分の力でつかみ取ります、って言おう。
自分の意思で行かないんだってこと、ちゃんと伝えよう。

その上で、ジェイともう一度向き合いたい。

そこらへんを説明し、むしろさっぱりした気持ちで前を見ると……彼はわかりやすく顔を引きつらせていた。

「気持ちはわかったけど、それって……今、じゃないとダメ? せめて、30分後、とか」
「ごめんね……決心鈍らないうちの方がいいかなって」

言った途端、がくっと目の前の頭が項垂れた。

「ごっごめんなさいっ!」

やっぱりこういう時、こんなこと言っちゃいけなかったのかな。
空気、壊しちゃった……?

わたしの不安が伝わったのか、「いや、こっちこそごめん」とジェイが苦笑いとともに首の後ろに手をやった。

「余裕なさすぎて、カッコ悪いよな。そもそも約束破ったオレが悪いのに」

そしてその手を伸ばしてわたしの頭をくしゃっと撫でると、ベッドから降りていく。

「ちょっと外で頭冷やしてくる。その間に電話しておいて」
「……ん、わかった。ありがとう」

お礼を言ってから、あれ、外は真夏だけど冷えるんだろうか、とか考えちゃったけど、それを口にする前にもう、彼はドアの向こうに消えていた。

心なしか、ふらついていたような……気のせいかな?

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