マリオネット★クライシス

ぽろっと、無意識にこぼしてしまった台詞だったけど。
ジェイは聞き逃さなかった。

「お母さんって?」

探る様に返されて、ちょっとだけ迷ったけど……ここまで話しちゃったら、と半ば開き直って、わたしは頷いた。

「今まで2度、仕事がこなくなった時期があるって話したでしょ? 1度目は子役の壁、そして2度目が4年前……お母さんと須藤さん――当時のわたしのマネージャーとの不倫スキャンダルだったの」

不倫、ってキーワードに世間は敏感だった。
“栞ちゃんは悪くないんだよ”って言いながら、スポンサーは手を引き、たくさんのオファーが泡と消えた。

「でもそれデマなのよ? うちのお母さん、結婚前に舞台女優やっててね、わたしの仕事のこともすごく熱心に応援してくれてたの。撮影の時はいつも一緒に来て、アドバイスくれたし……だから自然に、マネージャーとも親しく見えちゃっただけ」


――奥さんが浮気を疑って、ちょっと精神的におかしくなっちゃってるみたい。須藤さんも困ってたわ。ああいう写真も、今はパソコンで簡単に作れるんですって。怖いわね。

――でも栞ちゃんは、お母さんを信じてくれるわよね?


「なのにマスコミが家まで押し寄せてきて、ご近所迷惑になるし、少しの間だけお母さんは姿を隠した方がいいっていうことに……。でもね、家を出て行く時約束してくれたの。わたしが立派な女優になったら帰ってくるって」


――栞ちゃんなら、きっとできるわ。私の娘だもの。


「だから、頑張らなきゃいけないの。お母さんが誇りに思うくらい有名になれるように。そうしたら、お母さんはどこかで見ていてきっと喜んでくれる。そして、また元の生活に戻れるの」

ぐっと顎を上げて彼を見つめ返して……けれど、そこに期待していた同意の色はなかった。


「そのためには、身体売ってもいいって?」

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