マリオネット★クライシス
――ちょっといなくなるだけよ。仕方ないの。栞ちゃんのお仕事に影響したら大変だもの。
――全部、あなたのためよ。
「全部、わたしのせいなの」
家族がバラバラになって、残されたお父さんが笑わなくなって。
全部全部、わたしのせい――
「だから、わたしがなんとかしなきゃ……」
こみ上げてきた大きな塊に喉が塞がれたような心地がして、さっと天井を仰ぐ――その耳に、静かなバリトンが届いた。
「ユウは女優の仕事がよっぽど好きなんだなって言ったけど、訂正する」
「……は?」
ゆっくり目線を戻すと、どこか傷ついたような眼差しとぶつかった。
どうして……?
どうしてあなたが、そんな目をするの?
「好きじゃないだろ。いや、そもそも好きとか嫌いとか、そういうジャッジをしたことがない。違うか?」
「え……」
そうして思い出す。
ジェイにその質問をされたとき、頭が真っ白になったこと。
答えがすぐには返せなかったこと……
「なぜって、女優の仕事が好きなのは君じゃなく、君の母親だからだ。ユウは、母親に褒めてもらえる自慢の娘、トロフィーチャイルドをずっと演じてるだけ。マリオネットのように。そこに自分の意思は必要ない。だから、好きとか嫌いとか、考えたこともないんだ」