マリオネット★クライシス

は……?

ナニ、言ッテルノ?
お母さんが――戻って……

「も、戻ってくるわよっ」

真夏の舞台稽古の後みたいに、喉がカラカラ。
舌の上でざらざらと、嫌な味がする。

「ちゃんと約束したんだから。きっと帰ってくるって」


――お仕事、頑張るのよ。栞ちゃんの活躍、楽しみだわ。


「お母さんは、嘘なんてつかない。綺麗で、お料理だってなんだって完璧で、いつだってわたしのことわかってくれて……お母さんが、嘘をつくはずないっ」


――いつも見てるから。だから、お母さんのこと失望サセナイデネ。


「戻って来れないのは、全部わたしのせい。お母さんは悪くない」

お母さんは、嘘なんかつかない。
絶対に。

心の中で何度繰り返しても、さっき感じた“予感”は強くなるばかり。
息苦しささえ覚えて、もがくように襟元をギュッと掴んだ。

ジェイに何がわかるの?
今日初めて会った、数時間一緒に過ごしただけの相手じゃない。なんの権利があって、人のプライベートにズカズカ踏み込んでくるのよ?

頭の中でジェイを悪者に仕立てて必死に反論を練り上げていたら、両肩を掴まれた。
かがみこんだ彼と、目が合う。

チャコールグレイの瞳に映るわたしは、ひどく小さく見えた。


「そもそもさ、そのスキャンダル、本当にデマなのか?」



< 193 / 386 >

この作品をシェア

pagetop