マリオネット★クライシス
幕間⑦ 都内某企業・社長室~路上
「だからさぁ、そんな急に言われても」
「ですから無理を承知で、とお願いしています」
「はいはい、じゃあとにかく時間をちょうだいよ。ね、1週間考えさせて。そんなのボクの一存じゃ決められないもん」
(“もん”ってなんだ、“もん”って! 小学生か!)
綺麗に揃えた膝の上でぶるぶると震える拳を振り上げないよう、潤子は理性を総動員していた。
彼女が座っているのは社長室の中央、ご本人ご自慢の輸入物ソファである。
おそらくはイタリア製だろう。この男はイタリアメイドならなんでもイケてる、と思っている節がある。
だが、それらが少しも居心地よく感じないのは、ごちゃごちゃと目に入る賞状やトロフィーのせいか、あるいは目の前の男とどうにも相性が悪いせいか――
「この会社の代表は、高木さん、あなただと認識しておりましたが? そちらにとっても悪い話ではないはずです。幸運の女神には前髪しかないとも言いますし」
「女神の前髪ぃ?」
高木武彦は呆れたとでも言いたげに、ブランドスーツ(アルマーニあたりか)に包まれた小柄な肩を上下させた。
顔も小さく背も小さい、貧相な自分を大きく見せようとして、オーバーリアクションになってしまう癖は、昔からちっとも変わらないようだ。
いつもおどおど自信なげに泳いで相手を直視できない、その眼差しも。