マリオネット★クライシス
「ンの、石頭ッ!!」
自動ドアを抜けて外に出るなり、まだ昼間の熱を留めるアスファルトを蹴りつけてやろうとして――パンプスが傷つきそうだったので止めておく。
お気に入りのルブタンである。
あんなヤツのために痛めるのは悔しい。
すーはーと何度か大きく呼吸を繰り返し、はぁっと肩を落とす。
振り仰いだそこにそそり立っているのは、彼女の事務所が入るビルとはくらべものにならないご立派な高層建築だった。
「……やっぱり、ダメだったわね」
土曜日の夕方、複数の愛人を抱える身の彼を会社で捕まえることができたのは非常にラッキーではあったものの……結局、上手くいかなかった。
まぁこちらの依頼も相当無茶だったから、予想はできていたが。
――これは取り引きだ。対等な、ね。あなたならきっとできるんじゃないかな。
1時間ほど前にかかってきた電話を忌々しく思い出す。
相手の要求というのが、先ほどの男――高木との交渉だった。
――取り引きって……何をやりたいかはわかったけど、今一体何時だと思ってるのよ! しかも土曜日よっ? 今から、なんてそんな、相手が捕まらなかったら……
――別にどっちでもいいけど。困った事態になるのはあなただ。オレに協力してほしいんだよね?
――私を脅そうっていうの!?