マリオネット★クライシス

「あっ、……」

いつの間にか目の前に、ワンピース姿の女性が立っていた。

もちろんすぐに気づいた。
今朝静さんのマンションに行った時、廊下ですれ違ったマタニティ美女だって。

「宮本さんのお友達よね?」

大きなお腹に手を当ててふんわり微笑む彼女は、まるで聖母マリアかヴィーナスか。
眩しいくらいに綺麗で、一瞬ぼけっと見惚れちゃった。

「はい、や、あのっ……知り合いなのは、わたしじゃなくて、わたしの友達……なんですが」
「あぁ、一緒にいたあのイケメンの彼氏?」

「えっと……、彼氏、じゃないんですけど」

わたしが口ごもると、「あら、そうなの?」って黒目がちの大きな瞳が悪戯っぽく煌く。
「いい雰囲気だったのに」

「そう、ですか?」
くすくす楽し気に笑う彼女につられて、頬が緩んだ。

それからようやく妊婦さんを立たせたままだということに気づき、大急ぎでベンチの端へ移動した。

「あ、どうぞ、ここ座ってくださいっ」
「いいの? ありがとう」

うわぁ……笑顔がめちゃくちゃ癒し系。
旦那さん、溺愛必至だろうな。

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