マリオネット★クライシス
「楽しみですね、赤ちゃん生まれるの」
「そうね。まぁちょっと怖くもあるけど。何しろ初めてだから」
そ、そっか。
鼻からスイカ、とか聞くもんね。どこまでホントかわからないけど。
それくらい痛いってことだと思う。
「でもやっぱり、早く会いたい気持ちの方が大きいかな。そのためなら、なんだって頑張れる気がする」
「母は強し、ですね」
「あら、ユウちゃんもきっとそのうち経験するわよ? ほんとにあのイケメン、彼氏じゃないの?」
「それは……」
あのイケメン……か。
口の中でつぶやくや否や、自分の顔が曇っていくのがわかった。
「……好き、ですけど、付き合ってはいないです。それに……ちょっとケンカしちゃったし」
「ケンカ? どうしたの? 今朝は仲良さそうだったのに」
心配げな眼差しにまっすぐ見つめられて、ちょっと言葉に詰まってしまう。
どう返そう? って自問自答する。
普段のわたしは、そんなに自分のことをぺらぺら話す方じゃない。
芸能界での処世術っていうのかな、どこで誰が見てるか聞いてるかわからないし、余計なことは言わない方が絶対いい。
だから、こんな場面はうまく言い繕って別の話題に持って行く。
そう、いつもなら。
でもなぜだか今日は、話したくてたまらなかった。
彼女の醸し出す雰囲気のせいか、それとも……ひょっとすると、彼女が母親だからか……
奈央さんの顔と、膨らんだお腹とをしばらく交互に見つめていたわたしは、気づくと口を開いていた。
「子どもに嘘をつく母親なんて、いると思いますか?」