マリオネット★クライシス

「お子さんに『早く会いたい』って、奈央さん言いましたよね。母親なら、それが当たり前ですよね?」

ざわざわと落ち着かない胸を押さえるかわりに、膝の上に乗せた両手をきつく組み合わせた。

「うちのお母さん、不倫が原因で家を出たんですけど。あ、不倫はホントじゃないんですけどね。周りが騒いじゃって、一時的に避難って感じで」

どう説明すればいいのかな?
結城栞のスキャンダルだとバレないように、伝えるには……

苦労して言葉を選びながら、訥々とわたしは続けた。

「ジェイ――あの彼ですけど――お母さんはもう家に戻ってこない、なんて言うんです。ひどくないですか? 母親が娘に会いたくないってことですよね。なにそれって思いません?」

一言話すごとに、まざまざと蘇ってしまうラブホでのやりとり――何度も唾を飲み込んだけれど、揺れてしまう声はどうしようもなかった。

「彼……お母さんがホントに不倫してたんじゃないか、みたいなことまで言ってて。笑っちゃいますよね、あるわけないじゃないですか。だってあれはデマなんだから。お母さんがそう言ったんだから」


――栞ちゃんは、お母さんを信じてくれるわよね?


『うん、信じてるよ』、そう返事した自分をはっきり覚えてる。

信じてる。
お母さんを、信じてる――はず、なのに。

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