マリオネット★クライシス


「……何かが違うって、思ってたんです。ほんとは、ずっと前から」

考えなかったわけじゃない。
ただ、その先まで考えてしまうことが怖かった。

時間が経つにつれ、その恐怖はどんどんわたしを縛り付けて。
だから、止まることも引き返すこともできなくて、見ないふりをしてた。


「なんとなくわかってたから。このまま深く考え続けたら、真っ黒な醜いドロドロした感情にたどり着いちゃうって……お母さんのことっ……き、嫌いに、なって……しまうって……っ」

拳を、蓋するように口へきつく当てて、喉の奥の塊を全力で押し戻した。
それでも、涙に溺れる視界は晴れなかった。


「母親を嫌いになるなんて、人として間違ってますよね? 最低ですよね? あぁ……そっか、わたしがこんな最低な人間だから、お母さんは出て行ったんでしょうか。わたしを捨てて、出て行ったんでしょうか」

何を言ってるのか、自分でももうよくわからない。
なんだかすごく支離滅裂なこと、言ってる気がする。

いい加減にしなきゃ。やめなきゃ。
奈央さんだっていきなりこんな重いこと言われてびっくりしてる、何コイツって呆れてるって思うのに。

口が止まってくれない。
まるで終演直後の劇場、出口に向かってなだれ打つお客さんみたいに、言葉がどんどん吐き出される。


「わたしが母親に? なれるわけないです。親にすら愛されない子なんて、誰にも愛されなくて当然だもの。みんなみんな、わたしから離れていく――」



「っ……もういいっっ!!」


< 214 / 386 >

この作品をシェア

pagetop