マリオネット★クライシス
わたしから取り上げたスマホを、ジェイは迷いなく操作。
「履歴の一番上にある、これですか? 拓巳っていう人」
あぁよかった、と胸をなでおろした……のも束の間。
「……でないな」
一向に途切れない呼び出し音がこっちまで漏れてきて、ジワリと焦りが募る。
心臓がバクバクする。
赤ちゃん生まれちゃう……どうしよう……
「もうしょうがないなー、会議中で気づかないのかも。あ、大丈夫よ? まだ全然動けるし、自分でタクシー拾って病院に行くわ」
そうは言うけど、その笑顔は緊張で固くなっていて、大きな瞳は不安げに揺れてる。
きつく結ばれた唇に、胸がぎゅって苦しくなった。
そりゃ怖いに決まってる。
心細いよ。たった一人で、なんて。
しかも超痛いんでしょ?
せめて何か、できることがあれば……
「……奈央さん、わたしも一緒に行きます!」
とっさに声をあげてしまってから、大事な話を聞くところだった、って思い出したけど……ううん、赤ちゃんの命には代えられない。
「えぇっ……でも……」
「ジェイっ、大通りならタクシーすぐに見つかるかな?」
「オレが探してくる。ここで待ってて」
彼も同じ考えだったのか、力強く頷くや否や、アスリート並みの鮮やかなスタートダッシュで駆けて行った。
「奈央さん、タクシーが来るまでわたしにもたれててください!」
「ユウちゃん……ごめんね、予定とかあるんじゃ……」
予定は……あるにはあるけど、緊急事態だもん。
こんな場面で放っとくことなんてできないよ。
さっきは奈央さんがわたしに寄り添ってくれた。
だから今度は、わたしの番。
「心配なので、お節介させてください」って頼み込むと、ヴィーナスの顔がくしゃっと綻んだ。