マリオネット★クライシス
――では聞かせていただきましょうか。みんなでコソコソ、一体何を企んでいるんです?
相手はこちらより数段、上手だった。
だが、だからといってすぐに白旗を上げるほど潤子はお人よしではない。
ジェイの行動は、なんとしても守らなくてはならない。
こっちだって会社の存続がかかっているのだ。
例えライアンという男が何者であっても、ここまで来て邪魔されてなるものか。
せめて今夜を乗り切るまでは……
そこで彼女は少し考え――「取り引き、しません?」と紅い唇で微笑みかけた。
ある商談に先方が了承せず困っていること、それが上手くいけば自分の心理的負担が減って口も軽くなるだろうと嘯くと、相手は意外なほど簡単に乗って来た。僕が承知させて見せましょうと。
勝算はあった。
あんな親の遺産を食いつぶすしか能のないヤツでも、コネがなければ名刺交換すらままならない、世間一般で言う“業界の大物”である。
外国人で初対面の彼が面会を取り付け、さらにビジネスの話をすることなど、できるわけがない。
つまり、取り引きは成立しない。
最初からわかっているのだ。
そしてライアンには申し訳ないが、こちらも尻に火がついた状態で、正直彼に関わっている暇はない。
自分は自分で、あの石頭を動かす方法をさっさと考えなくては――と、カフェから所用を理由に退出した。