マリオネット★クライシス
第10幕 「今夜は覚悟しとけよ」
あぁ違った……
ドアから入ってきたのはナースさんと助産師さんで、ついついため息が漏れてしまった。
「間隔は……7分ね。まだまだ、これからよー。痛みはこんなもんじゃないから」
「止めなさい、患者さん怖がっちゃうでしょ。大丈夫。明日の今頃は赤ちゃんを抱っこしてますよ。ゴールははっきり見えてますからね。そこに向かって、頑張りましょう」
ナースさんの言葉を助産師さんがフォローしてくれて、奈央さんはなんとか頷いている。
「吾妻さん、痛いのはわかるけど、呼吸止めちゃダメよ。赤ちゃんも息できなくなっちゃうからね」
「は、はい……」
「じゃ、妹さんは腰とか背中とか、引き続きマッサージしてあげて。あと、これ」
そう言って、ナースさんはサイドテーブルの引き出しから取り出した何かを、わたしへ差し出した。
……テニスボール?
どう見ても、この黄色と言い硬さと言い、テニスで使うあのボールだよね。
生まれた赤ちゃんをあやす時に使う、とか?
きょとんとするわたしを見て、彼女は吹き出した。
「遊びで使うんじゃないのよ? 痛みがひどくなってきたら、腰とかお尻とか、これで押さえてあげるの。少しはマシになるわ」
「へぇ!」
ほんとにこんなもので?
普通のボールだけど……
それでも、何か自分にできることがあるって事実がなんとなく嬉しくて、わたしはボールを受け取った。