マリオネット★クライシス

「そういえば赤ちゃん、男の子ですか? 女の子?」
「女の子よ」

2人が出て行ってまもなく、痛みの波はまた遠ざかったらしく、奈央さんは雑談する余裕を取り戻したみたい。

わたしはベッドサイドの椅子に戻りつつ、チラッと部屋の時計を確認する。
いつの間にか針は進んでて、馬淵さんとの約束の21時までもう1時間もない。
ジェイともしっかり話さなきゃ……

いやいや、そんなことより赤ちゃんが大事。
今は考えるのやめよう。

頭を軽く振って雑念を払い、わたしは笑顔を作った。

「もう名前は決めてるんですか?」
「んーそれがねえ、いくつか候補はあるんだけど、まだこれって決め手がなくてね。旦那さんとは、顔を見てから決めようか、なんて言ってるんだけど」
「画数とか、考えるの大変そうですもんね」
「そうなの。調べ始めると止まらなくなっちゃって。ネットで調べても、言ってることがサイトによって違ってたり」
「こっちで吉だったのに、こっちでは凶、とか?」
「そうそう、そういう感じ」
「うわ、大変!」
「でしょう?」

くすくす、壁の方を向いたまま細身の肩がひとしきり揺れた後――


「ねぇユウちゃん」

つと、改まった声がした。

「はい? また痛くなりましたかっ」
よし、ボールの出番だ! って、手の中のそれを握り締めながら勢いよく立ち上がったんだけど。


「……お母さんのこと、許せなくていいと思う」


ぽつりと聞こえた言葉に、全身が硬直した。

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