マリオネット★クライシス
「……え?」
「ユウちゃん言ったでしょ、母親を嫌いになるなんていけないことだって。でもね、別にいいと思う。嫌いで、いいと思う。それが間違ってるなんて、自分を責めなくていい」
「奈央さん……」
――このまま深く考え続けたら、真っ黒な醜いドロドロした感情にたどり着いちゃうって……お母さんのことっ……き、嫌いに、なって……しまうって……っ。
――母親を嫌いになるなんて、人として間違ってますよね? 最低ですよね?
突っ立ったまま頭の中で自分の台詞を思い返していると、「実は、私もね」と彼女は語りだした。
「子どもの頃父親が不倫して、両親が離婚して……。最近は普通に会える関係になってるけど、いまだに当時のことを思い出すと嫌な気持ちになるし、許してない部分はあって。結婚式のバージンロードもね、お母さんと歩いたの。お父さんも出席してたけど、そこはやっぱり、どうしても譲れなかった」
小さな、ささやくような声だった。
でも、どうしてかな。
どんな叫び声より、それは大きく響いて聞こえたんだ。
「たぶん、この気持ちはこの先もずっと変わらないと思う。“過去を忘れて”、“過去を乗り越えて”、なんて簡単に言うけど、全然簡単なことじゃないもの。……ただね」
細い手が、優しくお腹を撫でる。
「今、自分が親になるってなって、なんとなくわかったことがあるの」
「わかったこと、ですか?」
「親も人間なんだな、ってこと。当たり前だけどね」