マリオネット★クライシス
「私なんて、妊娠がわかっても相変わらず朝は弱いし、お料理手抜きしちゃうし、忙しい時は旦那さんに当たっちゃうし……ね? 親になったらいきなり聖人君子になるとか、聖人君子だから親になるってわけじゃない。だから間違いも犯すし、嫉妬もすれば嘘もつく」
「だから」と肩越しに黒目がちな瞳が振り返り、わたしを捕らえた。
「嫌いっていう感情が生まれても、それはある意味自然なことで、間違ってるなんて思う必要はない。あなたは何も、悪くない」
「奈央、さっ……」
その背中に縋り付くようにして、顔を伏せる。
涙が、あふれ出すのがわかった。
「これだけは忘れないで。あなたにはあなたの人生がある。未来がある。それは、お母さんのものじゃない。あなたのものよ」
わたしの、もの。
わたしの、人生――……
「奈央さん、わたしっ」
「ぃっ! イッタ……ぁ……あ」
ひと際辛そうな呻き声が聞こえ、震える指がサイドレールを鷲掴むのが見えた。
「奈央さんっ!」
飛び起きて、慌ててボールを腰へ押し当てる。
ここでいいかな? 強さはこれくらい? もっと?
よく力加減がわからずに、ぐっと押す。
ふるふると奈央さんが首をふるから、ぐっとさらに押す。
もっと? もっとかな?
どうしよう、ナースさん呼ぶべき?
苦し気な呼吸を聞いて泣きそうになりながら、必死で力を込めた。
お願い、頑張って赤ちゃん!
お願い――!
心の中で、叫ぶように祈った時だった。
バタバタっ……と近づいてくる乱れた足音が聞こえ、
直後、ドアが吹っ飛びそうな勢いでスライドした。
「奈央さんっ!」