マリオネット★クライシス
飛び込んできたのは、ぜぇぜぇ息を切らしたスーツ姿の長身の男性。
柔らかそうな髪は汗で貼り付いてびちょびちょだし、ネクタイは取れかかっているし、シャツのボタンは何個か開いてるし……でもそれすら駄々洩れる色気になってしまうくらい、すっごくカッコいい人だった。
「たくみ……」
その姿を認めた途端。
奈央さんの顔が、子どもみたいにくしゃっと歪む。
あぁやっぱり、この人がご主人――拓巳さんだ。
「奈央さん、ごめん! ほんとにごめん、遅くなって」
ベッドに駆け寄り、伸ばされた白い手を奪うように包み込む。
全速力で走ってきたんだろうな。めちゃくちゃ息が上がってる。
奈央さん、愛されてるなぁ。
うーん、予想通りっていうか。
最強の美男美女カップル。
ふふ、よかった。もうわたしの出番はないかな。
胸をなでおろしつつ、手にしてたテニスボールを「じゃあこれ、バトンタッチしますね」って拓巳さんへ渡した。
「あぁ、君は……妻についててくれたんだよね? ありがとう」
「いえ、その、何もできませんでしたけど」
謙遜でもなんでもなく真実だから、ほんとに申し訳ない。
「ユウちゃん、ありがとう」
弱弱しい声に、急いで両手を振る。元気をもらって、勇気をもらって、お礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だもんね。
わたしはニコッと笑顔を向けた。
「頑張ってね、お姉ちゃん! 赤ちゃんも、絶対頑張ってるよ!」
そして、きょとんとしてる拓巳さんと青白い顔で吹き出す奈央さんを残して、病室を後にした。