マリオネット★クライシス
幕間⑪ 都内某地下駐車場
地下駐車場に停めた車、その運転席に座ったまま、宇佐美理久は迷っていた。
手の平の上で、USBメモリを弄ぶ。
依頼されたものは出来上がった。
突貫工事で作ったにしては、我ながらいい出来だ。
あとは届けるだけ。
依頼主はそれを望んでいるし、先ほど一足先に行った上司――潤子からも念を押された。出来上がり次第持って来いと。
自分がこれを届ければ……
おそらく、日を跨がずして世界中が結城栞の名前を知ることになるだろう。
明日から出演依頼が殺到する。
ドラマ、映画、CM……スターダムを駆け上がる様が見えるようだ。
依頼主の本来の意図は決してそこにあるわけではないが、そうなることはほぼ間違いない。
彼女は蕾だった。
小さく儚い、けれど内にしなやかな強さを秘めた蕾。
いくつもの嵐に耐え、ようやく大きく膨らんできた蕾。
その花を開かせる最後の仕上げが、このUSBメモリだとすれば。
芸能プロダクションの一社員である彼としては、迷っている場合ではない。
早く行動に移すべきだ。
しかし……
最後の最後で、宇佐美を躊躇わせているもの、それは――まだ一度も、この仕事について栞本人の了承を得ていない、という事実だった。