マリオネット★クライシス
『お茶でもしながら彼女に説明する? そんな時間がどこにあるの? いいこと? 事務所が承知してるのよ、誰も文句なんて言わないし、言わせないわ。だいたい、これは彼女のためでもあるでしょ。彼女は売れるわ。スターになれるのよ?』
潤子の言うことは正しい。
女優である栞から、このチャンスを奪うべきじゃない。
そんな権利が自分にないことくらい、わかってる。
ただ、彼女の口から一度も聞いたことがないことが気がかりなのだ。
彼女は……本当に、スターになりたいのだろうか?
「わかりました。もうできてますので、これからそちらへ持って行きます」
『よかった! じゃ、待ってるわ。よろしくね』
通話の切れたスマホを見下ろし、吐息をついた。
USBをズボンのポケットに突っ込み、車を降りる。
どうしたんだろう?
追いかけているうちに、情が移ったんだろうか?
そうかもしれない、と独り言ちる。
ジェイと一緒に笑う栞は、本当に幸せそうだった。
あの笑顔を、守ってやりたいと思うのだ。
ずらりと並ぶ高級車を横目に眺めて軽く頭を振り……宇佐美は歩き出した。