マリオネット★クライシス
そういえばスマホ持ってて……そっか、ああやって後をつけて撮影を……それをMVに編集したのか。
妙に納得していると、「仕方ないわよ」と別の声。
「想定外のことが重なりすぎて、イチから説明してる時間もなかったんだから」
キビキビした口調は、助手席から聞こえた。
女の人だ。
「で? このまま彼女も一緒に連れてくってことで、いいのね?」
ミラー越しにジェイが頷くのを確認してから、彼女はわたしを振り返った。
「今日はいろいろ大変だったでしょ。ごめんなさいね。やっと会えてうれしいわ、小早川潤子です。初めまして」
「はぁ、あの……?」
渡された名刺を外の明かりを頼りに読み取ると……
「……St.プロモーション……代表取締役!?」
セイントって言えば、アクトライツと同じくらい老舗の芸能プロダクションだ。
そこの社長が、こんな若くて綺麗な人?
あぁそういえば、確か先代が亡くなってモデルやってたお嬢さんが跡を継いだ、とかいうプロダクションがあったっけ。
「じゃあ、もしかしてセイントがファントムの……?」
「ん、アジアでのマネジメントをお願いしてる」
コクリと頷いたジェイが、つとわたしから身体を放した。
「ユウ、いろいろ勝手なことしてすまなかったと思ってる。全部最初から説明するから、どうか聞いてほしい」
覗き込むチャコールグレイの眼差しは、これまでにない真摯な光を宿していて……わたしは魅入られたように見つめ返した。