マリオネット★クライシス
それから――ちょっと2人で話したい、とジェイがドア付近のボタンを操作。瞬く間に前の席との間仕切りが音もなく閉まっていき、後部座席は密室になった。
無意識に速くなる動悸に気づいてしまい、密かに狼狽える。
やだ、なに意識してるんだろ。
こっそりぷるぷると首を振り緊張を紛らわせるわたしの隣で、「何から話そうかな」と静かな声が言い、ジェイは天井を仰いだ。
「もう気づいてると思うけど……オレは今朝会った時から、ユウが結城栞だって知ってた」
「…………」
たまたまいいタイミングで安く使えそうな落ち目の女優がいたから、出演させることを思いついた、とか? そんなとこだろう。
冷めた頭で考えていると、「偶然じゃないんだ」とまるでテレパシーが通じたみたいに彼が言った。
「偶然じゃない?」
「実は、柏木ヒナタのマンションを出てくるところから後をつけてた」
「へぇ……、って、は!?」
つけてた? ヒナタ君のマンション!?
どういうこと?
束の間、それまでの怒りも何もかも忘れてぽかんとするわたしを見て、ジェイは気まずそうに苦笑い。
「種明かしするとさ、翔也から連絡もらってユウを探してたんだ。『彼女、枕やろうとしてるからなんとかしろ』って――」
「ちょちょ、ちょっと待って!」
とっさに手を挙げて、言葉を遮る。
今、なんか聞き覚えのある名前があったような……
「翔也って言った? それって、モデルの翔也さん?」
「あぁ、オレたち同じ事務所なんだ」
あっさり返ってきた言葉に、
――あとはこっちでなんとかするから心配するな。
今朝わたしを逃がしてくれた恩人の言葉が重なって、もう呆然。
まさか翔也さんとジェイが知り合いだなんて……
「彼氏の所に行かせたって聞いた時は本気でキレたな。まぁ行先がはっきりしてたから捕まえやすかったことは確かだけど」
あと数分出てくるのが遅かったら部屋に踏み込んでた、と聞いて、もはやなんてコメントしたらいいのかわからないわたしだった。