マリオネット★クライシス
幕間⑫ 都内某所・大型トラック車内
大型トラックの荷台。
精密機器の森の中に、ライアンが座っている。
貴志を含む他のメンバーはすでに帰宅しており、後処理と称して残っているのは彼だけだった。
<ファントム……2年ほど前からネットをメインに活躍するシンガーソングライター。メッセージ性の強い歌詞と高い音楽性に裏打ちされた耳に残るメロディ、圧倒的な歌唱力に口コミで評判が広まり、世界各国の音楽チャート1位を総なめ、大きな話題に、ねぇ……>
吐息をつきつつ、英語の検索ページを目で追う。
<ただし、プロフィールは一切非公表で、公の場に出てきたことは一度もないため、AI作曲説やバーチャルシンガー説など、様々な憶測を呼んでいる――>
ずらりと並んだリストには、彼自身が好んで聞く曲もいくつかある。
ありていに言えば、ショックだった。
知らなかったのだ、本当に。
隠れて何かやってるらしいことは気づいていたが、株投資とか起業とか、そのあたりだろうと思っていた。
まさか、音楽とは……
つまり彼はずっと、優秀な大学生と謎のシンガーソングライター、という二重生活を送っていたことになる。
<誰にも気づかれずにこんなことやってのけるなんて……さすがグループダントツのIQを誇る天才児、ってとこかな>
感嘆を込めてつぶやいたところで、ドンドン! と荷台のドアを叩く少々荒っぽい音がした。