マリオネット★クライシス

――マリーから聞いたかもしれないけど、オレの父親はあのホテルを経営してる会社の社長でさ。

詳しく聞いていくと、ただの社長さんじゃなかった。
なんと、リーズホテルズジャパンの親会社・リーズコーポレーションのCEOにしてリーズグループのトップ、フレデリック・リー会長(内部では総帥と呼ぶらしい)の甥だって言うんだもん。
そりゃびっくりするよ。

だってリーズグループと言えば、シンガポールを拠点として、製造、物流、医療、IT……とにかく幅広い業界に関連子会社をもつグローバルな巨大組織。
国家に匹敵する影響力を持つ、とかド素人のわたしでも聞いたことがあるくらいだもの。

つまりジェイは、そんなメガキャリアの創業ファミリーの一員ってこと。
もちろん小さい頃からずっと、将来はリーズグループのために働くんだと言い聞かされてて。
そのことに反発を感じてはいたけど、自分の運命だと諦めてたんだって。

だから作曲を始めた時も周りには内緒にしてたし、趣味の範囲に留めておくつもりだった。ところが、想像以上にブレイクして……

――もう潮時だと思った。引き返せなくなる前に、亡霊(ファントム)は消えなきゃいけないと。

ABC音楽祭は彼にとって、いわば“最後の花道”だった。
これを限りに引退して、リーズグループ入りという運命に従うつもりだった。

ただ、たった一度とはいえ、お父さんは許してくれない可能性が高い。離婚調停中のお母さんは世界中を飛び回ってて(彼曰く遊びまわってて)、あてにならない。

そこでジェイは、潤子さんたちに手伝ってもらってこっそり来日を決行してしまう。
わざわざ別の旅行をカモフラージュとして用意し、周囲の目を誤魔化して。

計画は途中まで順調だった。ハプニングはあったものの首尾よくわたしとも会えて……ところがそこで、想定外のことが起きたんだ。

何者かが彼を追っていた。

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