マリオネット★クライシス
「おいおいそこのお前! なんてことしてくれたんだよ!」
「すみませんすみません、あの、その、急いでたもので、ほんとに申し訳ないですっ!!」
30代くらいかな、気弱そうなサラリーマンだ。
怒り狂った大男に詰め寄られ、すっかり怯えまくってぺこぺこ頭下げてる。
っていうか、こんな狭い路地に路駐してる方にも責任はあるでしょ?
なんだか可哀そうになってしまい、仲裁に入ろうと足を踏み出したんだけど――後ろから強引に、腕を引っ張られた。
何事かと振り仰げば、ジェイが何かを企むように口角を上げた唇へ、人差し指を当てている。
「今のうちに逃げるぞ」
「へ? 逃げ? あの、ちょっ……」
手を引かれ、ぐんぐん野次馬の海から引き離されていく。
え、えっと……どどどうしようっ……
「あっ、おい! 待ちやがれ! おいったら!」
焦ったような濁声が後方で響いて、チラッと目をやると。
こっちに気づいたらしい巨体が、ぴょんぴょん人垣の向こうから飛び跳ね、わたしに向かって拳を振り回しているのが見えた。
マズい……このまま逃げたら、間違いなくあの人、ジェイを殺しちゃうよ。
「あああの、待ってください。わたし、戻らないとっ……」
「戻る? 無理だろ」
「無理?」
「そう。もう決めたから」
決めた? 何を?
聞こうとして、その美貌に浮かんだ不敵な笑みに気づき、口を噤んだ。
「ユウのバージン、オレがもらう」
「は……えぇっ!?」