マリオネット★クライシス
「社長、おでかけですか?」
先ほど言葉を交わした男性社員が、小さなエレベーターホールで追いついた。
「えぇ、ちょっと六本木まで。今日はもう出勤されてるはずだから」
それが、くだんのタレントのためのフォローであることに気づき、彼は不安げに眉を下げた。
「“プロデューサー詣で”、ですか?」
「まぁね。念のため、予防線を張っておくわ。相手が相手だし」
疲れた様に肩をすくめる上司の言葉で、彼も思い出した。
相手、というのがABCテレビの次期常務と言われる人物であることを。
そして、「差し出がましいかもしれませんが」と切り出した。
「我々、探しに行きましょうか? まだ見つかってないんですよね?」
大勢で探した方が見つかる可能性も高いのでは、と提案する社員を、潤子は苦笑しながら見やった。
「都内にどれだけの人間がひしめいてると思ってるの? そんなの、砂漠の中から針を一本見つけるようなものよ」
「ですが……」
「心配しなくても大丈夫。あの子はきっとホテルに現れるから」
プロデューサーへの挨拶はあくまでも予防的措置だ、と自信たっぷりの口調で言い切った――が、すぐにその表情へ一筋の影が落ちる。
(でも、もし……)
心の内でつぶやいたはずなのに、付き合いの長い彼には伝わったらしい。
「何か、気になることでも?」