マリオネット★クライシス
何もない、と誤魔化そうかとも思ったが、ふと考え直し、周囲に視線を走らせた。
誰もいないことを確認し、声を潜める。
「……マネージャーが接触した時、あの子、一人じゃなかったそうなの」
苦々し気なつぶやきに、社員ははて、と首を傾げた。
「そりゃ、悩み多き年頃ですからね。相談に乗ってくれる友達の一人ぐらい、いるんじゃないですか?」
「相談にのってくれる友達、ね。それが異性だったらどう? 別の名前を付けた方がいいんじゃないかしら」
そこでようやく上司の言わんとしていることに気づいた彼は、「あぁ」と頷いた。
「恋人じゃないか、ってことですね? でももう18ですし、何もおかしくないでしょう? 実際、相手がいるって噂も聞いたことありますよ?」
事務所としても恋愛禁止ルールを設けてるわけじゃないし、問題ないだろうと肩を持つ部下に、潤子はやれやれと首を振る。
あの子に想う相手がいるらしいことは、把握している。
本人からそれとなく匂わされたのだ。
その時は、笑って聞き流しておいたが……
この手の問題は、扱いが非常に難しい。
「私の持論はね、タレントにとって恋愛の9割はトラブルしか生まないってことよ。恋に溺れて周りが見えなくなって、仕事に集中できなくなる。若い子ほど、特にね」
もちろん、相手次第で残りの1割になる可能性もあるとはいえ、潤子は懸念を抱いていた。
というのも、あの子は実家に特殊な事情を抱えており、そのせいかどこか危ういところがあるのだ。
引退してしまうのでは、潤子自身がそう疑ったことも一度や二度ではない。