マリオネット★クライシス
本当に大事なものに出会った時、あの子はどうするだろう?
あっさりとすべてを捨ててしまわないだろうか。
自分の手の内から、飛び立ってしまわないだろうか?
(そんなことさせないわ、絶対に)
難しい表情のままエレベーターのボタンを押す。
「今朝の脱走だって、もしかしたらその恋人が何か関わってる可能性もあると思ってるの。まぁ後から本人に厳しく問い質すけど」
「もし、本当に関わってたら――」
どうするおつもりですか、と言いかけて彼は言葉を飲み込んだ。
冴え冴えとした眼差しが、それ以上を言わせなかったのだ。
やってきたエレベーターに颯爽と乗り込んだ潤子は、振り返って口を開く。
「プライベートな理由で仕事を放りだしたってことだものね、その場合はあの子にも代償を払ってもらう。きっちり、ケジメをつけるためにね」
音もなく閉まっていく扉。
閉まりきる直前――社員は、赤い唇がくすりと微笑むのを見た。