マリオネット★クライシス
確かに視聴率は上がった。
同時に、SNS上には彼女に対する誹謗中傷のコメントがあふれ、クラスメイトからは陰湿なイジメに遭ったが。
それでもなんとか耐えられたのは、この恋が本物だと信じていたからだ。
――まぁ一応、おめでとうと言っておくね。あの人、ABCテレビの幹部候補だし。上手く満足させられたら、この先随分美味しい思いできるよ。
僕のことも上手く褒めといて。よろしく。
酷薄そうな笑みを浮かべた男が告げたところで、奥の方から女の甘ったるい声が響いた。
――あーんやだぁ、あたしのブラ、見当たらないんだけどー。ヒナタってばどこに投げたのよぉ?
わかっていた。
玄関に散らばったハイヒールを見た時から。
しかもそれは1足じゃなく……
青ざめる彼女の言葉を封じるように、トップアイドル様は万人を魅了する無邪気な笑みを浮かべた。
――もういいかな、帰ってくれる? 今夜はほら、君も知ってるだろ、ABC音楽祭、あれに出るからそろそろ支度しないと。生放送って、リハも打ち合わせもほんと大変でさぁ。あ、よかったらテレビで観てね。
人生初の彼氏。
あまりにもあっけない幕切れだった。