マリオネット★クライシス
幕間② 白金台・路上
「……ぁっぶな……」
男は大きく息を吐き出し、モゾモゾと不格好に、へばりつくように倒れ込んでいた助手席から上体を起こした。
運転席に座り直し、注意深くフロントガラス越しに前方を確認する。
そして視界に仲良く手を繋いで歩いていくカップルの後姿を認め、ホッと全身の力を抜いた。
「やれやれ……お姫様はかなり地獄耳だな」
可笑しそうに口元を緩め、20代半ばのその男は手元のスマホに目を落とす。
画面には階段を降りようとする2人の男女がしっかりと映っている。
よく撮れているが、こんな程度では依頼主は満足しないだろう。
できれば動画も欲しいところだ。
念のため、ドローンなどの飛び道具も用意はしてあるけれど……さて、使うチャンスはあるだろうか。
様子を伺いつつそんなことを考えているうちに、ターゲットの2人は運よく通りかかったタクシーを停めたようだ。
あらかじめ全開にしてあった窓から素早くスマホを出して、そこへ画面をフォーカス。パシャパシャッと何枚かを連写する。
随分距離が離れているせいか、今度は彼女も気づかなかったようだ。
「さて、どこに行くのかな」
楽し気につぶやいた男は、素早くグローブボックスから黒縁の瓶底眼鏡を取り出し、知性を感じさせる奥二重の瞳をわざわざ隠すように装着。
さらに手櫛で、艶やかな黒髪をぐしゃぐしゃに乱す。
サイドミラーにチラリと自分を映して、まぁこんなものだろうとでもいうように頷くと、エンジンをかけた。