マリオネット★クライシス
赤信号でタクシーが停まる。
尾行には全く気づいてないのだろう。
顔を寄せ合い熱心に語り合う後部座席の恋人たちの姿が、すぐ後ろにつけた車からよく見えた。
何を話しているのかはわからないが……
先ほどよりその距離が確実に縮まっていることに気づいて、眼鏡の奥の瞳が弧を描く。
彼氏の方がかなり積極的なようだ。
顔を赤らめる少女に、さっきから揶揄うような甘やかすような眼差しを注ぎ、何かをささやいている。
どこから見ても初々しいラブラブカップル。
いや、バカップルか?
なにやら見せつけられてる気がして、虚しくなってくるほどだ。
「せっかくの休日だっていうのに、僕は何をやってるんだろうなぁ」
本来なら、家族サービスに勤しんでいるはずだったのに――
おそらく自分が選ばれたのは、自宅が近かったせいだろう。おかげで、2人に追いつけたわけだが。
(さっさと動物園に出かけてしまえばよかった)
薬指のリングに触れつつぼやいた男は、その一言でTシャツにチノパン、というラフな自分のスタイルを思い出したようだ。
時間的にはそろそろランチタイム……
「頼むからミシュランフレンチは止めてくれよ」
この格好でどこまで尾行が可能かを割と真剣に考えながら、スマホを前方へと向ける。
そして、録画をスタートさせた。