マリオネット★クライシス

無我夢中で席を立ち、飛び出そうとしたわたしの目の前で、

パシッ……


乾いた小気味いい音がして。
それから、どっとどよめきが沸いた。

男の繰り出した拳を、ジェイが軽々と片手で受け止めて……ううん、違う。
掴んでるんだ。
彼、金髪を振り乱して必死に引き抜こうとしてるもの。

「は、はな、っせ……!」

それでもがっちりと拘束された手は一向に外れなくて、汗が吹き出した顔に焦りと恐怖が浮かび始める。


「……知らなかったな」

ジェイがゆっくりと再び口を開いた。

「オレって割と、心の狭いヤツだったみたい」

その瞳はもう、全く笑ってない。

「……目の前で彼女ナンパされて、なんか今、ものすごく機嫌悪いんだよ。彼女に触れたこの手を、ついウッカリ(・・・・・・)折ってしまいたくなるくらいに」


もともと彫刻のように整った顔立ちのせいか、温度の消えた表情は真夏でも背筋が凍り付きそうなほど冷ややかで。

一気に空気がピンと張り詰めた。
みんな同じことを感じたんだと思う――彼は本気だって。

「でも問題ないよな? 先に手を出したのはそっちなんだから。こんなにたくさんの証人もいるし、正当防衛ってことで」

言いながら、握り締める手に力を込めたんだろう。
つぶれたような悲鳴が静まり返った店内に響く。

「す、すすみませんっ……もうしません! ごめんなさいっ!」

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