マリオネット★クライシス
カチカチ歯を鳴らしながら叫ぶ男を睨みつける、感情を抑えた眼差し。
そこに垣間見えたのは、舞台用の小道具なんかじゃなく、本物の研ぎたてのナイフみたいな鋭さで――ゾクリとした。
わたしの、ために? どうして……?
どうしてそんな風に、守ってくれるの?
「あの……ジェイ?」
妙なことを考えてしまいそうな自分が怖くて、とっさに声が出ちゃった。
すると、パッとこちらを振り向いた彼は――……
「ユウ!」
くしゃっと、またあの陽だまりのような微笑みを浮かべて男を放し(2人は転がるように外へ飛び出していった)、その手でわたしの肩を抱き寄せた。
それは……まるで、ライオンから子ネコ。
周囲がざわつくほどの劇的な変化だった。
「一人にして悪かった。怖かっただろ?」
まるで本物の恋人にするみたいに、頭のてっぺんにキスを落とされて。
きゅんっとまた、胸の奥で不思議な音が鳴る。
「う、ううん。平気。助けてくれて……ありがと」
どこかで聞こえる女子たちの黄色い声は奇妙に遠い。
なんだかわたし、フワフワしてる。
ズルいよ、ジェイ。
あなたにとっては普通のことかもしれないけど。恋愛初心者相手にそんな、特別、みたいな態度とったら、誤解されても文句言えないよ?
も、もちろんわたしは……自惚れたりしない。
椿さんの代わりだってわかってるし、
全部ただのフリだって、ちゃんと理解してる。
それはつまり、台本のないお芝居みたいなものだ。
こっちはプロだもん。振り回されるわけにはいかない。
そう。彼はただ――お芝居が上手いだけ。