マリオネット★クライシス
その後、東京という土地柄なのか、あっという間に元の喧騒を取り戻した店内。
スタッフさんがわざわざ席まで運んできてくれたのは、ジェイのスマホと2人分のハンバーガーセットだった。
どうやら彼、会計を途中で放り出して駆け付けてくれたらしい。
「素敵な彼氏さんですね。羨ましいです」って感激されちゃった。
彼氏じゃないんだけど、って台詞は、空気を読んでグッと我慢。
まぁそれはいいとして……
彼女が戻っていくなり、やっぱり聞いちゃった。
「ねぇ、どうして横並びで座ってるの、わたしたち?」
普通向かいあって座らない? って眉をひそめたら、「この方が近いだろ、距離」とかなんとか、さらっとスルーされた。
そりゃ近いけど。
肩もぶつかりそうだけど……つまりこれが、恋人の距離?
世間一般のカレカノ、ってこんな感じなの?
イマイチ納得できないまま、「じゃあせめて」と不満を漏らす。
「反対側に座ろうよ。店内の方向いて座るのって……」
いくら隅っことは言え、なんだか見世物になってる気分だ。
それでなくても、さっきの騒動のせいでチラチラこっちを見てるお客さん(主に女性)、まだいるっていうのに。
「周りなんて気にしなきゃいい。そのうち向こうだって飽きるさ」
「それはその……」
そうかもしれないけど、とモヤモヤしながら隣を伺うと、自分のハンバーガーに手を伸ばしたジェイと、視線が絡んだ。
途端にまた彼の目元がふっと緩んだ気がして、ドキリとする。
それそれ、その目、止めてほしい。
そんな、愛おしそうな、蕩けそうな……。
「じ、ジェイって演技の勉強、したことある?」
「いや、ないけど?」
「じゃあ……その、俳優目指してみれば?」
「はいゆー?」
ダブルサイズのハンバーガーにかぶりつこうとしていた大きな口が、そのまま動きを止めた。