マリオネット★クライシス

「カッコいい!」
「きゃあっヒナタくーん!」

タイムリーな歓声が沸き、ビクッと笑顔が引っ込んだ。

みんなの視線を追って行くと、店内の複数の液晶画面がヒナタ君にジャックされていた。
なんだ、CMか。

そういえば彼、大手ファストフードの仕事がきたって自慢してたっけ。
ここだったんだ。

画面の中、ブレザー姿の彼は同級生っぽい女の子と向かい合って座り、ハンバーガーを頬張ってる。学校帰りのデート中、みたいな設定かな。

冷めた目でなんとなく眺めていると、長めのポテトをつまんだヒナタ君が、「あーん」と彼女へ差し出す。
相手が端に食いつくと、反対側をヒナタ君がパクリ。

そのまま彼がどんどん食べ進め、可愛く焦っちゃう彼女。
ついに2人の唇が触れそうになるところで、画面がお店のロゴに切り替わる。

「きゃあっ今の、キスした? したと思う?」
「したんじゃない? やっぱカッコいい~!」
「『あーん』とか、彼女にしちゃうのかなぁ」
「ぎゃああっ死ぬ! そんなことされたら即死決定!」

しないしない。
興奮した声を聞き流しながら、こっそり突っ込むわたし。

食事してる時のヒナタ君は……どうだったっけ。
そうそう、ほとんど下向いてスマホ触ってた。

デートらしいデートも、結局なかったな。
一緒の車で移動したり、一緒にロケ弁食べたり……その程度。大抵、どっちかのマネージャーが傍にいたし。

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