子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 くすくす、とよく似たふたりの声が不協和音のように私の鼓膜を引っ掻く。

 彼女はテーブルにあった手紙をきれいな指でつまむと、水仕事で荒れた私の汚い手に触れないよう握らせた。

「読んで」

「……はい」

 たとえ妹であっても、私の立場は彼女より下だ。

 母は徹底的に私を嫌い、疎み、身に覚えのないことを父に言ってはつらい罰を与えるほど憎んでいる。冬の日に下着姿で外へ出され、雇われた手伝いの者で事足りるはずの家事をさせられ、時には食事を満足に与えられない時もあった。

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