子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 そんな様子を見てきた妹が、私を姉と見るはずもない。母は弥子のそうした態度を止めなかったし、父も私が継母を嫌い困らせる子どもだと信じていたために黙認した。もっとも、彼はもともと私に対してあまり関心がなかったのだけれど。愛していたのは亡き母であって、その娘ではなかったのだ。

 弥子に渡された手紙に視線を走らせると、彼女の言うように縁談について書かれていた。

 相手は――葛木保名(かつらぎやすな)。

 その名前を見た瞬間、どくんと自分の中で心臓が跳ねた。

 ふたりが口にしている久黒庵の和菓子は、手紙に名前を記されている葛木家が先祖代々作ってきた伝統的な品だ。

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