子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 語る保名さんの口調に感情は乗っていなかったが、愛人を連れ込み息子を疎んだ母と、自身の愛人を息子の婚約者にしようとした父と、なにも思っていないはずがない。

 爛れた男女関係をすぐ側で見てきた彼が、そういう女だと紹介された私を嫌うのは至極当然だろう。

 私の態度を演技だと言うのも、彼の前とそれ以外とで態度を変えた母によって学んだ痛みから来るものだとしたら、どうしてと責めるのは酷だ。

 あの日からずっと、私は保名さんについて考えている。

 彼を形成する考え方の一端を知って悲しくなった。そんな思いをしてきた人に、望まない妻と子を作らなければならないなどという新しい傷を増やすべきではない。

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